いよいよ夏休みが明け、今日から2学期となりますが、皆さんは、この夏休みはどのようにすごしたでしょうか。
学校のホームページやインスタグラムでは、この期間中もサマープロジェクトなど様々な活動が紹介されていました。校内外では暑い中、クラブ活動が活発に行われていました。中でも、中学3年の塩見渚さんが全国中学生テニス選手権大会で全国優勝したことは、大変すばらしいことでした。目標を遥かに超える成果だということですが、これを達成するまでの途方もない努力と研鑽の日々があってのことでしょう。皆で祝福を送るとともに、一人ひとりも自分の挑戦の糧としていきましょう。皆さんもぜひ目標を高く持って、啓明学院での日々を充実させてほしいと願います。
中学2年生必修の青島キャンプは猛暑の中で行われました。これに先だって行われた島開きとしての海洋冒険キャンプも中2の青島キャンプも、人生の糧となる大きな経験だったのではないでしょうか。リーダーとして参加してくれた高校3年生の皆さんにも感謝します。ありがとう。
また、海外プログラムでは高校生のイギリス訪問や中学生の韓国訪問がありましたが、参加した人たちは、それぞれにかけがえのない経験をしてきたと思います。
私は、高校生12名とともにアメリカでの英語・メソジスト研修に行ってきました。参加者は、テキサス州ダラスのサザンメソジスト大学での英語授業、現地家庭でのホームステイ、そしてミシシッピ州に移動して、啓明の創立者J.W.ランバス先生らの出身教会での礼拝など、様々なプログラムを経験しました。
その中で、とても印象的で皆さんと共有したいことを、2つ紹介しようと思います。
まずは大学での英語授業のことです。担当してくださったリンダ先生からは、生徒たちが意識をするので日本の教員はレッスンの間は、教室に入らないように言われていました。ところが3日目の朝、ぜひ、中に入ってほしいと言われたのです。不思議に思いつつ教室に入ると、皆が揃ったところで、リンダ先生が非常に厳しい面持ちでお話を始められたのです。
今日は8月6日です。アメリカが広島に原爆を落とした日です。自分たちアメリカ人は大変つらい経験を日本の人たちにさせてしまいました。心よりお詫び申し上げます、と深々と頭を下げられたのです。一緒にいたスタッフでアメリカ人の大学生も一緒にです。
中央がリンダ先生
日本の生徒たちを迎えるにあたって、原爆を落とした日が、滞在期間中に来ることをリンダ先生は知っていたのでしょう。そうしてアメリカと日本の関係において、今、自分の務めを果たそうと思い、その謝罪に至ったのでしょう。突然のことに私達はびっくりしてしまいましたが、一人の人間として歴史を担うことの意味を考えさられるひとときでもありました。
その日は午後にダラス市内を観光する日でした。ダラスにはケネディ大統領が狙撃された場所があり、高いタワービルがあります。最初に私達はホロコースト博物館に行くことにしていました。ダラスには、第2次世界大戦のときにナチスの弾圧を避け、ヨーロッパから移住した人たちの末裔がたくさんいることもあり、立派な博物館があるのです。
その博物館で私達を案内してくれたのはリンダ先生でした。リンダ先生はユダヤ系であり、ご自身の親族がホロコーストの犠牲になったことも教えてくれました。原爆被害を受けた日本に対する思いを伝えてくれたリンダ先生は、歴史上最悪とも言われる被害者でもあったのです。
おしゃれで明るい雰囲気のリンダ先生の授業を受講した人は楽しんだことでしょう。しかしその背中には深く、重い歴史を担っていたのです。ただ、そのことを一方的な立場に立つのではなく、自分もまた加害側にいることを謙虚に受け止めておられました。、さらに今の時代に起こっていることをリアルに、そして心から嘆き悲しんでいることもメッセージとして話をしてくださったことに、歴史を歩む人間のあり方を示された思いになりました。
ミシシッピ州に移動してからは、現地のマディソンメソジスト教会を拠点に多くの活動をしました。初日の夜には教会で若者たちの礼拝に参加させてもらいました。現地の中高生が礼拝堂いっぱいに集い、互いにお祈りあい、一緒に歌う中にいた時間は素晴らしい経験でした。
翌日は、講演を聴きました。ゲストスピーカーとして来てくださったのは、フロンジー・ブラウン・ライトという女性でした。彼女はなんと1960年代にマルチン・ルーサー・キング牧師とともに公民権運動に取り組んでおられた方でした。黒人女性としてミシシッピでどれほど苦難に直面されたか、そして絶えることのない脅しの中で、選挙権を勝ち取るために命をかけて粘り強く活動しつづけたお話は胸に迫るものでした。
フロンジーさん
終わりに、一緒に引率していた岩佐先生が「ぜひ、この日本の若者たちにメッセージをください」とお願いすると、言葉を2つ、贈ってくださいました。
それは、Never, never, never give up !
そして、You are special. です。
神様に祈りながら、怖い思いもしながら、黒人の、特に女性のために生きてきたフロンジーさんのこの言葉は、今の私達にも十分、届くものではないでしょうか。絶対あきらめるな、あきらめたら次の時代も同じことが続く、と思うからこそ、あの時代に心を強くして立ち上がれたのでしょう。もちろん今の時代の私達に同じことをするのは難しいとは思いますが、たとえ失敗したとしても諦めずに挑戦したものには必ず、それ以上の意味や結果が与えられることでしょう。
皆さん一人一人がスペシャルな存在なのです。それは神様の前に一人ひとりの人間が、かけがえのない命を託された特別な存在であるということです。その命の火を灯された皆さんが、この2学期も、啓明学院で、大切な仲間たち、先輩や後輩、先生やコーチらと共に、二度とない2025年度の日々を、与えられた賜物を存分に活かして歩んでほしいと今一度心に強く思うものです。
終わりに、ミシシッピの教会で参加者全員にプレゼントしていただいたものを紹介します。
十字架です。これは私達が訪問するのに合わせて教会の方々が手作りしたものです。なんとランバス先生が住んでいた家の庭に生えていた木から削り出して作ったとのことでした。
啓明学院や関西学院の創立の礎を築かれた、ランバス先生にゆかりのある学校の生徒たちが来るということで、他にはない、心を尽くしたお土産となりました。心を込めた思いということが、どういうものなのか、ということに気付かされます。私がいただいた十字架は、啓明学院の財産として100周年記念館で保管してもらおうと思います。
私達はみな、歴史の中を歩む、一人ひとり特別な、価値ある存在です。私達には、まだまだ知らないことや、知るべきことがたくさんあります。貪欲に吸収し、与えられている力をもっともっと高めていかねばなりません。やりたいことに没頭し、自分の力を他の人や社会のために用いて、皆さんの希望ある人生を、もっともっと豊かなものにしていきましょう。
この2学期、楽しみにしている行事をはじめ、様々な学びの機会があります。終業式には、今の自分と比べて成長したな、と思えるように、充実した日々を過ごしていきましょう。皆さん一人ひとりの輝きを心から楽しみにしています。
弱いときにこそ、神様が共にいてくださることを心の支えとし、ネバーギブアップの精神で歩みましょう。
You are special. 皆さんはかけがえのない、特別な存在です。
指宿 力