中学校入学式 式辞

新入生の皆さん、記念すべき中学入学にあたり、皆さんにこれから啓明学院で大切にしてほしいことをお話しします。最後まで聞く姿勢を整え、しっかりと耳を傾けてください。

 

「稲の妻」と呼ばれる雷  自然がくれる天然の肥料

去年のことですが、しばらくお米が手に入りにくくなりました。品薄になって価格が上がり、「コメ不足」が起こりました。私たちの食卓に欠かせないお米が、突然手に入りにくくなったのですね。どの家庭もお米がどこにあるか探したり、少々高くても頑張って買ったりしたのではないでしょうか。この経験は、私たちが当たり前のように享受している自然の恵みが、いかに繊細なバランスの上に成り立っているかを教えてくれます。

実は、この美味しいお米を育てるために、古くから日本人が「神からの恵み」として大切にしてきたものがあります。 それは「雷」です。

日本で最も雷が多いのは八月ですが、春先に鳴る雷を「虫出しの雷」と呼ぶそうです。冬の間、土の中で深く眠っていた虫たちが、春の訪れを告げる雷の音に驚き、目覚めて地上に這い出してくる。まさに、生命を呼び覚ます「目覚まし時計」のような役割を、雷は果たしているのです。

また、雷には、別名があります。それは「稲妻(いなずま)」です。なぜ、恐ろしいはずの雷を、コメを実らす「稲」の「妻」、つまり配偶者や連れ添うものと呼ぶのでしょうか。そこには、科学が発達するはるか昔から、先人たちが経験的に知っていた驚くべき真理が隠されています。

現代の科学は、この「稲妻」の正体を解き明かしています。空気中には「窒素」という成分が豊富に含まれていますが、 これは植物が育つために不可欠な「肥料の三要素」の一つです。しかし植物は空気中の窒素をそのまま吸い込むことはできません。 ところが、空を引き裂く強烈な放電現象、すなわち雷が発生すると、そのエネルギーによって、空気中の窒素と酸素が反応し、「窒素化合物」へと姿を変えるのです。

そしてこの窒素化合物は、雨に溶け込み、大地へと降り注ぎます。つまり、雷が鳴るたびに、天から天然の肥料が田んぼへと届けられているのです。でもそれだけではまだ駄目なのです。

春先の田んぼではよくレンゲが育てられていますが、これはレンゲなどのマメ科の植物が大気中の窒素や、降り注ぐ窒素化合物を植物が使える形に変える働く菌を持つ植物だからです。その根粒菌という菌がはたらいてようやく雷が植物の成長につながる効力が働くのです。

「雷が多い年は豊作になる」という古くからの言い伝えは、単なる迷信ではなく、科学的な根拠に基づいた事実でした。雷という激しく、時に恐ろしい光は、実は稲に命を与え、実りをもたらす「恵みの光」でもあるのです。それを昔の人が経験的に学んだことを活かし、今でも春先の田んぼではレンゲを育てているし、神社ではジグザグの雷をあらわす紙垂を祀って豊作を祈願するですね。

 

「なぜ?」を突きつめた挑戦者、ベンジャミン・フランクリン

そして現代科学の第一歩ともいってよいかと思いますが、この「雷」の正体が、実は「電気」であることを命がけで証明した一人の人物がいます。アメリカ建国の父の一人としても知られる、ベンジャミン・フランクリンです。

今から270年ほど前、人々にとって雷は依然として「神の怒り」であり、人間の手が及ばない恐ろしい「超自然現象」でした。しかし、フランクリンは違いました。彼は、空に走るあの光は、自分たちの手元にある静電気と同じ性質のものではないかという仮説を立てたのです。

彼は、激しい嵐が吹き荒れる中、なんと「凧」を揚げました。今、私たちが考えれば、それはあまりに無謀で、命を落としかねない危険な行為です。しかし、彼はどうしても真実を知りたかった。知的好奇心の炎を抑えることができなかったのです。

雨に濡れた凧の糸を伝わり、その末端に結びつけた金属製の鍵からパチパチと火花が飛んだその瞬間、人類は初めて「雷の正体」を掴みました。フランクリンは、それまで誰もが「そういうものだ」と思っていたことを、科学として解明したのです。

彼は、一度や二度の失敗で諦めるような人ではありませんでした。周囲から「変人」と呼ばれようと、未知の領域に足を踏み入れることを恐れない真のチャレンジャーでした。そして、フランクリンの本当に偉大なところは、その発見の先にあります。彼は雷が電気であることを突き止めると、すぐに建物に落ちる雷を逃がす「避雷針」を発明しました。

これによって、どれほど多くの命と建物が火災から救われたことでしょう。しかし、彼はその画期的な発明の特許を取りませんでした。

「自分の発明は、すべての人々の役に立つべきだ。」

彼はそう言い、アイデアを無料で公開したのです。政治家でもあった彼は、それ以外にも、当時はまだ一般的ではなかった「公立図書館」の設立や「消防署」の設置、さらには「郵便制度」の確立など、現代の私たちが「当たり前」に使っている社会の仕組みを次々と考案しました。彼の原動力は、常に「なぜだろう?」という強烈な知的好奇心と、「世のため、人のために何ができるか」という志でした。

 

啓明学院で大切にしてほしい「三つの宝物」

さて、新入生の皆さん。皆さんが今日から通う、啓明学院中学校という場所は、単に教科書に書かれていることを暗記する場所ではありません。むしろ、ここはフランクリンのように、身の回りの現象に対して「なぜ?」と問いかけ、では自分には何ができるだろうと「ゼロ」の状態から、新しい自分を作り上げていく場所です。

そこで今日から始まる皆さんの3年間において、大切にしてほしいことが三つあります。

第1に、「知的な好奇心」を絶やさないことです。今日、私は雷が稲妻とも呼ばれている理由をお話しました。私はこれを知ったとき、とても面白いと思いましたし、いろんなことの意味が分かりました。さらに窒素化合物を人工的に作る時、多くの人々を苦しめた公害の原因となったことも知りました。知らないことを知ること。それは、世界の仕組みを解き明かすための「魔法の鍵」を手に入れているのと同じです。雷が稲を育てるように、学びは皆さんの知性を豊かに育みます。数学の公式、理科の実験、歴史の変遷、それらすべてが、皆さんの視野を広げる光となります。

第2に、「挑戦する勇気」を持つことです。フランクリンが嵐の中で凧を揚げたことは、非常に危険な行為なので絶対に真似してはいけませんが、学びたいのは、真理を追い求め、挑戦し続けたことです。皆さんも失敗を恐れずに挑戦してください。部活動で新しい技術に挑む、生徒会活動で学校をより良くするアイデアを出す、あるいは苦手な科目に正面から向き合う。たとえ上手くいかなくても挑戦して得た失敗は、成功への何よりの肥料となります。

啓明学院は生徒一人ひとりがチャレンジャーであり、それをお互い大切にする学校です。「お前には無理だ」なんて、誰も言いません。「失敗してなんぼ」です。そんな学校風土を皆さんとも守り、チャレンジ精神旺盛な啓明生へと育っていってほしいと願っています。

第3に、「自分の能力や力を他の人のために、社会のために用いる」ことです。政治家でもあったフランクリンが、雷は電気であるという自分の発見を下に避雷針を発明し、そのアイデアを誰もが無料で使えるようにしたことは、歴史的にも高く評価される行動です。皆さん一人一人にも多くの能力があり、他の人を思う優しさや、社会をよくするために何かしたいという気持ちがあることでしょう。いつか、皆さん自身がこの啓明で磨き上げる「知恵」と「勇気」を使って、周りの人を、この社会を、そして、この世界を明るく照らす存在になってほしいと願っています。

 

「世界に仕える実践者」へ  あなたの光で未来を照らそう

そしてこのような願いを下に、実は今年から啓明学院では育てるべき人間像を次のような言葉で表すことにしました。それは「世界に仕える実践者」というものです。

何のために学ぶのか、何のために鍛えるのか、そして何のために生きようとする人を育てるのか、これらを分かりやすく明確に示しました。それは、ただ知識を蓄えるだけの人ではありません。また、自分一人の成功のために力を使う人でもありません。雷が、その凄まじいエネルギーを大地に捧げて豊かな実りをもたらすように、自らの中に蓄えた「知恵」と「勇気」を、誰かの幸せのために、惜しみなく「行動」へと変えていける人のことです。

これから始まる啓明学院での日々において、皆さんの前には、時に激しい雷鳴が轟き、嵐のような試練が立ちはだかることもあるでしょう。しかし、どうか恐れないでください。その激しい雨は、皆さんという大地を深く耕し、豊かな人間性の根を張らせるための、かけがえのない「恵みの雨」となります。

啓明学院の「啓明」という名には、闇を切り裂き、夜明けを告げる「光」である、明けの明星という意味が込められています。ですから、ここは、皆さんも失敗を恐れることなく、自分だけの「光」を思う存分に磨き上げ、放つことができる場所なのです。その光を、自分のためだけに使うのではなく、隣にいる友の足元を照らし、そして、まだ見ぬ世界に希望を届けるために、しっかり学び、何ができるかを深く考え、勇気を持って一歩を踏み出していきましょう。

皆さんがこの学び舎で、「世界に仕える実践者」として、世界を温かく照らす「希望の光」へと成長していくことを私は確信しています。そして私たち教職員は、いかなるときも、皆さんの味方であり、共に歩む伴走者です。

さあ、共に新しい時代を創りましょう。皆さんのこれからの躍進を心から期待し、式辞といたします。

 

2026年4月2日

指宿 力

 

啓明学院中学校・高等学校
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