
新入生の皆さん、啓明学院高等学校ご入学、本当におめでとうございます。
皆さんはSNSにはどれほど親しんでいるでしょうか。
私は、LINEは日常的に家族や友人、また先生方との連絡に使っています。また、学校の公式アカウントがあるInstagramは投稿を確認するために見ることがあります。Tick Tockは最近まであまり触れてなかったですが、時々見ることがあります。Facebookは、私くらいの年代だとかつての仲間たちとの近況報告の場所として見ることがあります。おそらく皆さんの年代なら、違う発想でいろんなものを使いこなしているのではないかと思います。
知っている人も多いと思いますが、この度、オーストラリアでは16歳未満のSNS利用が禁止されることになりました。これに対し、僕達の青春が台無しだ、となげく当事者たちの声もあります。法に従わなかった企業には多額の制裁金が発生するので、実際に法律が施行されれば、企業活動に厳しい制限が加えられることでしょう。
子どもであろうと大人であろうと、SNSの使いすぎは人間そのものに悪影響を起こしやすく、特に脳が発達段階にある10代の子どもたちには不適切な利用が避けがたい中毒性のあるものだ、とオーストラリア政府は判断したということです。
今は、パソコンから個人端末のスマホ社会に急速に移行中です。その変革の中心にあるSNSの利用制限は、俯瞰的な視点から見れば、時代に逆行しているように映るかもしれません。世の中の進化を妨げるべきではないと思う人もいるでしょう。
私の兄は、ヨーロッパで車や飛行機を作る会社で開発エンジニアをしています。電気自動車に移行する様々な計画が、今、次々と変更され、どんどん時代は逆戻りしている、そしてトランプ氏の大統領就任で一層加速するだろうと言っていました。実際、国によっては電気自動車を開発するための補助金がカットされたりしているので、そうならざるを得ないのでしょう。
日本の学校ではこれから電子教科書の導入を拡大する方針が出されています。ところが、フィンランドが紙の教科書へと回帰していくことが最近大きなニュースにもなりました。これは、PISAと呼ばれる国際学習到達度調査において2000年に読解力1位だったのが、教育のデジタル化に伴って順位を下げたからだそうです。
こういったことは時代が変わる、イノベーションだ、変革だ、と言っていたことが、何だか上手くいかなくなっていることの例かもしれません。10年前に発表されていた「今後なくなる職業ランキング」も生成AIの登場でずいぶん予想が外れたものになったようです。
それでも時代はどんどん進んでいきます。私が皆さんの時代に愛用していたカセットテープやビデオテープは見なくなりましたし、テレビもすっかり薄くなり、今では壁掛けです。ネット検索も、知らないことは調べられるだけでなく、きちんと論点をまとめて教えてくれるようになりました。新しいアイデアやデザインもあっという間に提案してくれるようにもなりました。これらはすべて生成AIのなせる技ですね。
皆さんが高校を卒業するときに世の中には、きっと大きな変化が生まれていることでしょう。
大切なのは、そのような変化の中にあっても、私達は、自分はどう生きるのか、ということを考え続けることです。そして自分を鍛えることです。
皆さんの入学した啓明学院高等学校は関西学院大学継続校であり、9割以上が継続校推薦を利用して大学進学する学校です。そういう意味では今から高校生活を共にするのは目標を共有する仲間たちです。ぜひ啓明学院生として一体感を持ち、互いを大切にし、共に学び、共に創り出し、今よりもよい学校として、次世代にこの校風を繋いでいく歩みをなしてほしいと願います。
しかし、仲間たちと共有する目標に向けて歩むプロセスは一人ひとりに委ねられています。もしかしたら皆とまったく別の進路を考えるという人も出ることでしょう。それは当然のことです。でも、そのような中で、皆さん一人ひとりに、この高校生活で意識してほしいことがあります。それは量をこなすということです。
そのことで心がけてほしいポイントが3つあります。
1つ目ですが、高校での学びはいっそう高度なものになりますが、授業や行事で直面する様々な課題について、一つの解決法だけでなく、様々な解決方法を考えることを是非心がけてほしい。
使えるツールやアクセスできるものは今までよりも増えるはずです。自分から出てくるものだけでなく、仲間のアイデアにも耳を傾ける。一つの解に固執するのではなく、複数の解からベストチョイスを導こうとする、そういったプロセスこそが、きっとあなた自身を鍛え、より深い思考力を身につけていくことができるのではないでしょうか。考えを深めたり、アイデアをぶつけ合ったり、それを導き出すために手を動かすことで、考える量が増えるはずです。それを怠らず積極的にこなしてほしいのです。
2つ目は、早く、沢山挑戦することも心がけてほしい、ということです。チャレンジを明日に伸ばさない。手を挙げる時は条件反射的でもかまわない。いいなと思ったら直感で挙げる。そして一つのチャレンジで満足しない。
もしかしたらそれは沢山の失敗を伴うことになるかもしれませんが、啓明学院では誰も他の人の失敗を笑うことはないし、むしろその挑戦しようとするマインドをたたえる学校です。そのチャレンジ精神こそが自分自身への肯定感を高める大きなチャンスとなるはずです。だから早く、沢山挑戦するのです。
そして3つ目です。それは、好きなこと、得意なことをとことんやる、ということです。好きな教科、得意な科目というのは皆それぞれにあることでしょう。放課後のすべてをかけて部活動や校外での活動に励む人もいることでしょう。それは途方もない時間をかけることでもあるはずです。
また、本をたくさん読むことも、映画をたくさん見ることも、いろんな音楽に触れることも、どんどん積極的にやってほしい。
好きなこと、得意なことをとことんやるためには、やらなければならないことをやることも大事です。それは仕方ない。
啓明学院での青春の日々を、どうぞ自分磨きのために大切に用いてほしい。そしてその量をこなすうちに本当に良いものはどういうものか、質が分かってくるはずです。圧倒的な量は、高いクオリティを知る裏付けとなるからです。
時代がどのように移り変わろうと、変化しようとも、回帰しようとも、次の学びに向けた実力を備えた人格を磨きましょう。
聖書は私たちに語ります。求め続けよ、探し続けよ、門を叩き続けよ。
何度でも、その自分と対話し、本当の自分は何を求めているのか、いったい何を探しているのか、なぜその門を叩くのか、考えてみてほしいのです。
その歩みは一筋縄ではいかないことばかりかもしれませんが、それでも粘り強く取り組んでください。上手くいかないことがあってもへこたれずに何度でも挑戦してください。
その歩みの中に、皆さん自身が隣にいる人や家族や社会を温かい心で包む、そしてこの世に必要とされ、神様に愛される、あるべき啓明生の姿が見えてくることでしょう。そして、その学びの先に、啓明でよかった、啓明でなければならなかった、と心からそう思える日があるはずです。
その日を楽しみにし、いよいよ始まる高校生活を充実したものとしていきましょう!
皆さんのこれからを心より楽しみにしています。
以上をもって式辞といたします。
2025年4月2日
指宿 力