KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

夏休みを迎えて 

2021年7月20日

緊急事態宣言や蔓延防止措置期間が続く中、コロナ対策に心を砕く1学期でしたが、本日こうして終業の日を迎えることができることを嬉しく思います。ただ、この間も様々な理由で登校することができなかった生徒もいますので、そのようなことも覚えつつ、今日はこの後、1学期の学びの成果を受け取り、振り返りとこれからの取り組みを計画的に進める時間も持って欲しいと願います。ともあれ、皆さん、1学期間よく頑張りました。

明日からはいよいよ夏休みが始まります。高1は今日から、中1は明日から、校内と前島でのオリエンテーションキャンプに変わるプログラムが始まります。また来週は中3と中2の青島キャンプが行われます。いずれも宿泊は適いませんが、今年ならではの、そして自分たちならではのキャンプを経験してください。一人一人が積極的にプログラムに参加することはもちろん、仲間との時間を大切にして、自分だけが楽しめれば良いのではない、皆で創り出すキャンプを作っていきましょう。

また高校3年生でリーダーとして参加してくれる人もたくさんいます。どうぞよりよいキャンプ実施のために皆の力を精一杯注いでください。後輩達の喜びを自分の喜びとできたとき、皆さん自身も自分の成長を実感できることでしょう。頑張ってください。

高校生に向けたプログラムではサマープロジェクトを実施しますが、参加する皆さんのよりよい経験がチャレンジした者ならではの喜びに繋がってくれればと願っています。

 

さて、今朝もいよいよ夏、という朝を迎えました。皆さんにとって夏と言えば、何でしょうか。私にとってはなんと言っても夏と言えば高校野球です。

小さい頃から甲子園球場のある西宮市で育ったので、高校野球は身近な存在でした。家の近くに出場チームが宿泊する旅館があり、宿舎前で選手達が素振りをする姿などを、よく見に行っていました。

今はちょうど全国大会の予選が行われています。啓明学院は出場していませんので、代わりに自分の母校や全国のキリスト教主義学校の勝ち負けをチェックするのが日課になっています。また、これまで吹奏楽部が友情応援させていただいた、いくつかの学校も気になりますが、その中でも、今や時の人になっている大谷選手のいた岩手県の花巻東や、高校時代の後輩から「甲子園に出るのにウチの学校には吹奏楽部がないので助けて!」とSOSを受けて、応援に行ってもらった北海道の白樺学園などは、特に思い入れ強く応援しています。そうして関わりを持つ学校や知り合いがいるというだけで、こうした思いになれることは幸せなことですし、この時期ならではの楽しみです。

 

もう一つ、夏と言えば、というと、私にとって、それは戦争です。日本は1945年8月に広島、長崎に原爆を投下され、無条件降伏を余儀なくされたこともあり、夏になると平和をテーマにした作品が取り上げられたり、報道がなされたりします。

戦争が終わる、その1945年は、ここ神戸周辺でも大小合わせて128回もの空襲があったそうです。その中でも3度の大空襲、3月17日は今の中央区から長田区への大空襲、5月11日は灘区東灘区への大空襲、そして6月5日は垂水辺りから西宮にかけて行われた大規模な空襲、これらにより神戸市全土が壊滅的な被害を受けています。西宮や神戸には戦闘機を作っていた川西航空などがあったので、特にそのあたりへの攻撃は念入りにされています。今の阪神競馬場は川西航空宝塚工場の跡地ですし、阪神電車の武庫川線はJR甲子園口駅から海沿いの工場へ続いた引き込み線の名残です。また、川崎重工という現在の神戸を代表する企業も、船や航空機を作っていたので激しい攻撃を受けていますが、その工場のあったあたり、今の兵庫区に大開通という8車線の広い道路がありますが、焼け野原になったところに道路を通したということでいえば、あれも戦争の名残です。

また、皆さんの中には毎日通っている人の多い、三宮駅は最近、工事が完了し、おしゃれな雰囲気漂う、今風の駅になりましたが、実はまだ随所に戦争の名残がある場所です。JR三宮駅の南側に西口と中央口を繋ぐ歩道がありますが、並行する青く塗られたJRの橋桁には、機銃掃射の弾丸の後が残っています。また、中央口改札を出た辺りにある大きな柱は、映画「火垂るの墓」のオープニングシーンで清太兄ちゃんがもたれかかる柱でしょう。毎年のようにテレビでも繰り返し放送される「火垂るの墓」は神戸、西宮が舞台ですので、気をつけて見ているとちゃんと御影の公会堂などが描かれています。二人の兄弟が最後を過ごしたのは関西学院の近くの大池ですね。

「火垂るの墓」のような戦争をテーマにした映画を見たりすることは、今に生きる私たちにとって戦争の悲惨さや取り返しの付かない悲しみをもたらすものと教えてくれるでしょう。多感な10代を過ごしている皆さんには、そのような時期に是非意識的にそのような機会を作って欲しいと願いますし、啓明学院でも行われる平和教育には真剣に取り組んで欲しいと願います。

 

先日、NHKスペシャルの特番を見たのですが、すでに私たちの悪い想像を超えた現実が起こっていることを改めて見せられた番組でした。長く続いている中東のアゼルバイジャンとアルメニアの争いで、去年の9月に軍事衝突が起こりました。日本ではそれほど大きな報道ではなかったのですが、その紛争は知っていました。しかしその番組で紹介されていたのは、アゼルバイジャン軍が自爆ドローンを使ってアルメニアの兵士に攻撃を仕掛けていたことです。そんなことは想像もしていませんでした。

人工知能AIと爆弾を搭載したドローンは、発射された後、空中をただよい、相手の持っているスマートフォンの電波や敵のレーダーを察知すると、ピンポイントで攻撃を仕掛けるのです。隠れていてもドローンが追いかけてくるので、逃げることは困難です。徹底的に追い詰められたアルメニア軍は、やられるだけやられ、停戦合意していましたが、実質な敗戦でした。

自分で敵を判断し、徹底的に追い詰める自立型のドローンが、このように戦争に利用されることの恐ろしさに恐怖しかありません。AIによる殺人兵器は、去年の春のリビアの内戦で人類史上初めて使用されたそうですが、イスラエル軍も今年の5月に起こったパレスチナとの抗争でドローン攻撃を行っていました。

新しい技術は人類の歴史と共に発展してきました。そして、古くは鉄や火薬の発明から、農薬や飛行機やキャタピラを作ることも、中性子を衝突させ、原子核を分裂させることによって起こる巨大なエネルギーを作る技術も、新しい技術は徹底的に戦争に利用されることによってめざましく進化しました。

 

今、私たちは、AIやITにまつわるこの新しいテクノロジーを戦争利用し始める時代に居合わせています。SNSを使って人の気持ちを扇動することもすでに行われています。サイバー空間のテロはますます大きな脅威ですし、AIによる自律型兵器はドローンだけでなく、いろいろなものに応用され始めています。

新しい技術は人を幸せにするものではないのでしょうか。そして平和を願う聖書の言葉はもう古くさく、過去の遺物なのでしょうか。

私はこのような時代だからこそ、過去に学ぶことの大切さを強く感じています。75年以上経っても町に残る銃弾のあとは、その時代に生きた人たちに襲いかかった恐怖の名残です。「火垂るの墓」の節子ちゃんとせいたくんは、あなた自身かも、いや、未来のあなたの息子や娘の姿かもしれません。

当時を生きた人の話を聞いたり、歴史的な傷あとに触れたり、映画を見たりすることは、過去を身近に引き寄せることの大切な歩みです。それが私たちの想像力を満たしてくれるのではないでしょうか。そしてそのことによってのみ、私たちは選ぶべき未来をはっきりと理解できるようになるのではないでしょうか。

そしてその時にこそ、聖書に示される、皆さん一人一人に神様に託されたミッションがあること、そして平和を創り出す人は幸いである、その人達は神の子と呼ばれる、という聖句が呼びかける道の先に真理があることが、私たちが何を期待されている人間であるかがよく分かってくるのではないでしょうか。

かつて激しい空襲のあった町に住み、世界で唯一、原子爆弾が投下された国に住む、今に生きる私たちにとって、戦争の経験を学び、聖書に示される平和を創り出す人になることが期待されていることを、今、共に分かち合いたいと思います。

 

いよいよ夏休みが始まります。元気に、有意義に、暑さを感じながら、2度とない2021年の夏を楽しんで欲しいと思います。そして夏ならでは経験と学びを深めるチャレンジに取り組んでください。

そのような夏休みを始めようとしている皆さんをこのコロナによる憂鬱が覆っていることも事実です。しかし、それでも高校野球が行われたり、オリンピックが行われたりする平和な時代でもあるのです。

そのような時代に生きるからこそ、過去に起こった出来事にも目を向けることによって、今を知り、皆さんが歩もうとする未来をどのように作っていくべきかを考えて欲しいと願います。皆さん一人一人には、本当にたくさんの才能や力が神様から与えられています。それを活かし、平和な、神様の願う世界を作る人として、しっかりと力をつけて言って欲しいと願います。

一人一人、この夏休みに備えられたチャンスを活かして、グッと成長した皆さんと2学期に会えることを楽しみにしています。くれぐれも川や海などの水場での遊びには気をつけてくださいね。

それでは安全で、健康を第一にすることはもちろん、その上でのチャレンジングでエキサイティングな夏としてください。

 

(1学期終業式でのメッセージ)

 

 

指宿 力