KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

一人一人が大切にされる世界をつくる担い手に

2022年1月9日

3学期始業式のメッセージ

 

新年明けましておめでとうございます。新しい年の訪れを共に喜びたいと思います。2022年も、生徒の皆さん、教職員の皆さん、一人一人にとって良き年となることを心より祈っています。

感染症対策の一環として、今日の始業式は、チャペルには生徒は入らず、教室で映像配信によって行っています。しばらくはできるだけ大人数では集まらないようにしたいと思います。皆さん、気持ちを引き締めて、感染症対策を意識して行ってください。一人一人の心がけが何より大事です。どうぞよろしくお願いします。

 

年末の2学期終業式でお話しした牛乳の大量廃棄の恐れ、それはせずに済んだと、農林水産省が1月4日に発表していました。皆さんのご家庭も協力してくださったかもしれません。私も夜寝る前にホットミルクを一杯飲む程度ですが、普段しないこともしました。乳製品の加工をしている工場も、年末年始の休みを返上して協力したとの報道もあります。負担がかかった方々もいる中で、大量廃棄が回避されたことを覚えておきたいと思います。

また、2学期の終業式では、酪農に人生をかけた黒澤 酉蔵の思いに重ねて、皆さんにも夢を持って新しい年を始めてほしいとお話ししましたが、皆さんの今年の夢や目標は何でしょうか。今年は寅年ですので、「干支に合わせて阪神タイガースの優勝を」と私は願っていますが、それよりも、皆さんが自分の成長を目指し、よりよく一日を歩もうとしてくれることを何より願っています。皆さんの成長の舞台として、啓明学院がよい学校であるために頑張っていきたいと考えています。共に頑張りましょう。

 

さて、年末に生徒会役員の川島君より案内があり、今日、公示されますが、今月末にはいよいよ生徒会選挙が予定されています。現在、啓明学院で行われている選挙も、民主主義の土台となる、非常に大切なシステムです。この機会を有効に用い、学院に在籍している皆さんが、よりよい学校作りを担い、さらに学院を良いものに作り替えて、次の世代に良いバトンを繋いでほしいと願います。

生徒会選挙に出ようと考えている人は、皆さんの中にどのくらいいるでしょうか。いろいろな理由があって出られない人もいるかもしれませんし、興味はあるけれども、まだ一歩を踏み出しかねている人もいるかもしれません。何事においても「自分に大役が務まるかな」と思ってしまうのは当然です。躊躇する気持ちは誰にでもあることでしょう。しかし、その一歩先には、必ず今までに見たことのない大きな世界が広がっていることでしょう。その一歩を踏み出すことが、皆さん自身の成長であり、進化です。

もし「誰かに何か言われたらいやだなあ」というような思いでいる人がいれば、それはあまりにももったいないことです。確かに、何かしようという人に向かって、ネガティブな言葉をかけるような人がいると気になるかもしれません。しかし、啓明学院が大切にするチャレンジ精神に反する言葉をつぶやく人は、まず、ここにはいないと思ってほしいです。誰か気を遣って自分のチャンスを逃すようなことは、やめましょう。陰で何かを言う人のネガティブさは、あなた自身の人生に何も関係がないからです。皆さんは、自分が願う自分自身の人生を大切に生きる人であってください。

これまで私が受け持った生徒によく話をしてきたことの一つに、「立場が人を育てる」ということがあります。「自分には難しいかな、大きすぎるな」と思うことでも、その立場になったら、それなりにできるようになるものです。私自身、いつもそれを信じているのです。皆さんも弱気になりそうなときには、「立場が人を育てる」と自分の心に言い聞かせ、一歩を踏み出してほしいと願います。そのチャレンジ精神こそが、皆さん一人一人の次の扉を開いてくれるものとなるでしょう。その時に見える世界は、絶対に今とは違うものになるはずです。

 

ところで、先ほど「選挙は民主主義の土台となる、非常に大切なシステムです」と言いました。民主主義とは、わかりやすく言うと「みんなのことはみんなが話し合って決めること」であり、その「みんなは平等だよね」ということが原則です。歴史の中で、人間は生まれた場所や血筋、身分や位などによって優劣をつけてきました。キリスト教の広まりとともに、人々の間に聖書の価値観が根付く中で、神様の前に一人一人は等しい存在であるとする、キリスト教的民主主義が生まれていきました。今の私たちの言う民主主義は、こうして広がった聖書の価値観がベースとなっています。だからこそ、私たちの学校においても、学校を代表する生徒会長や役員は選挙で決めることが大切なのです。

 

しかし民主主義にもいろいろと問題点があるようです。ニーチェという19世紀後半に活躍したドイツ人の哲学者は、「イエス・キリストの教えは素晴らしい」とする一方、当時の教会に対して「教会の教えているキリスト教や教会がやっていることはぜんぜんダメだ」と批判的でありました。その理由として、キリスト教の価値観とする民主主義の弱さを挙げました。

「みんなで選んだら平等だって言ってるけれど、選ぶときって結局気分やん、気分で選ぶと間違うねん、頭悪い人間も賢い人間も同じ一票なんてしたら、気分に流される頭悪い人間がゴソッと流れた意見が通ってまうねん、そしたら後からホンマ大変なことになるねん、だから民主主義はアカンねん、決めるときはみんなで決めるんじゃなく、賢い人たちでしっかり選ぶ方が絶対いいねん」というようなことを言っているのです。ニーチェの著書『アンチクライスト キリスト教は邪教です』という本には、そのような、当時の教会に対する批判が記されています。

 

現代において民主主義は、一人一人が大切にされるという意味で、変えてはならないシステムですが、ニーチェが批判したような弱さも確かにはらんでいます。だから民主主義を運用するときには気をつけなければならないのです。「しゃべりがうまい」とか、「面白いことを言った」というような選択ではなく、物事の本質を見抜く目を持って、深く考えて選択をしなくてはならないのです。

民主主義の運用については、フランス革命の指導者の一人であったロベスピエールが、選挙で選ばれた後に独裁者となり、恐怖政治を始めたことなどを教訓にするためにも、歴史を学ぶことが欠かせません。一方で、今の時代に沿った、新しい民主主義の姿も提案されています。たとえば「液体民主主義」と言われる、テクノロジーが発展している現代流の民主主義があります。それでも、民主主義の基本は、一人一人が大切な一人として尊重されることに変わりありません。それは私たちが生きていく社会の中で失ってはならないものでしょう。

 

戦争や紛争、差別やいじめは、民主主義の前提を大きくくつがえすものです。だからこそ、そのようなことをすることは絶対に避けなければなりません。

皆さんは、一人一人が大切にされるという民主主義の担い手の一人です。皆さん自身が、敏感で、澄んだ感性を持って歩むことによって、一人が大切にされる世界を守りましょう。そして啓明学院での学びが、そのような思いを確かにするものであることを願っています。

 

今も世界では、安心した生活を脅かす難しい出来事がたくさん起こって、厳しい状況が続いています。

 

1月4日 シリアでは、暴力が激化し、ユニセフの給水車が攻撃され、子供達が殺されたとニュースが伝えています。

1月5日 北朝鮮は、新型の極超音速ミサイルの発射実験を行ったと発表しました。

1月6日 中国との関係がまた不安になっている台湾では、市街地における戦闘を想定した演習が行われたそうです。

1月7日 ウクライナとの緊張した関係を続けるロシア軍に対し、これ以上ウクライナに侵攻するなら強力な制裁をするとイギリスが発表しました。アメリカやドイツもロシアに警告を出し、こうした流れが第3次世界大戦の火種になることを危惧する声が高まっています。

 

今、私たちがこうして始業式を守っているこの時にも、一人一人が大切とされないことが起こっているのです。私たちは、何よりもまず、平和を祈りましょう。祈りは世界を覆う神様の愛のみなもととなります。そして行動できる自分づくりを目指したいと願います。世界を知り、自分を知り、他者のために考え、動ける、創造的な自分を目指したいものです。

 

これが冒頭に私の願いとしてお話した、皆さんが自分の成長を目指し、よりよく一日を歩もう、と願ったことの中身です。そしてそれが、神様が望んでおられる平和な世界の一歩となることでしょう。

年の初めにあたり、この一年も皆さんの安全が守られること、

皆さんの背後にいらっしゃる家族の皆さんの上に神様の平安があること、

そして啓明学院が皆さん一人一人の、神様に望まれる学びと祈りの場であることを心より祈っています。

 

 

 

 

 

指宿 力