KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

中学校卒業式 式辞

2022年3月15日

2021年度啓明学院中学校卒業生の皆さん、卒業おめでとう。

 

世界中が大変な思いをしたこの時期に中学生活を送ることになり、皆さん自身も時には窮屈で不満のたまることあったとは思いますが、その時々にできることを感謝して受け入れ、可能な範囲で許されることは目一杯やったのではないかな、と思います。今日までよく頑張りました。

そして保護者の皆様、中学卒業という晴れの日を共に迎えることを嬉しく思います。これまで学校に対しても暖かいお支えをいただきまして、本当にありがとうございました。今年度はなかなか難しくはありましたが、折に触れ、学校に足をお運びいただき、生徒たちが与えてくれる喜びや感動を共に分かち合えたことは何よりの幸せでした。

また、学年主任の松村先生を始め、学年団の先生方、今日まで生徒たち一人一人に寄り添い、励まし、今日まで共に成長の歩みをなしていただき、本当にありがとうございました。

 

さて、第六波と呼ばれる感染拡大も少しずつ減少傾向に入っていますが、陽性者が増え始めた1月ころから、私の家でも、家族で囲むことの多い晩ご飯はできるだけ、しゃべらないで食べよう、ということになりました。そこで普段、ご飯を食べるときはつけないテレビを観ながらの黙食が始まったのですが、せっかくなのでNHKの連続テレビ小説を観ることにしました。今、放送されているのは「カムカムエブリバディ」という作品です。観ている人はいますか。

実はすっかりはまってしまっているのですが、この作品は三人の女性の生涯を連ねたストーリーになっていて、今は三人目の主人公になっています。しばらく観ていると、今の主人公のひなた、という女性はちょうど自分と同じ年ということがわかってきました。だから、作品の中に出てくるテレビ番組や流行歌が自分にぴったりなのも、はまっている理由の一つです。

ひなたさんのお父さん、オダギリジョーさん扮する丈一郎は、もとは戦災孤児でした。彼は子供のころ、戦災孤児としてどん底の生活をする中、運良く拾われた先で才能を開花させた、元ジャズトランペッターとして描かれています。

戦災孤児、それは戦争で親を失った子供達です。行く場所がなく、町の片隅でその日暮らしを強いられた子供達が、そのころの日本には大勢いたのです。観たことのある人もいるでしょうが、「火垂るの墓」というアニメ映画は三ノ宮駅で命をついえる戦災孤児のお話ですね。皆さんと同じ年頃の人たちが戦争によって、家を失い、家族を失い、ただただ生き抜くことだけを願い、その日に食べるものを求めてさまよっていた時代が、この日本にも、この神戸にもあったのです。

 

今、ウクライナで起きている事態を前に、私たちの間には平和を願う思いが強まっていると感じます。それは、おそらくここにいる誰もが共感し、共有する思いでしょう。

テレビやSNSを通して観る、現地の映像は、私たちの心を深く突き刺します。何とか停戦を、何とか撤退を、と世界中が願い続けています。

そして、私たち一人一人に問いかけてきます。あなたが平和のためにできることは何ですか、と。

 

中学を卒業する皆さんが今、できること、皆さんにしてほしいことを三つに絞ってお話しします。

一つ目は、現在起こっていることに関心を持ち、真実を知ろうと学ぶこと、です。今、注目されているのはウクライナですが、様々な歴史的要因があっての現在の事態です。もちろん、世界中に目を向けてみると、今も平和と言えない場所や出来事がたくさんあるのです。アンテナを広げ、歴史や世界に関心を持つ皆さんであってほしいと願います。

 二つ目は、どのような理由があろうとも平和でない中にいる人のことを思い、祈ることです。それは、今すぐにでも私たち一人一人ができる平和行動です。ここのところ毎日、多くの子供達が、大人に連れられてウクライナから脱出している様子が報じられています。不安に覆われた、疲れ切った様子をたびたび見ます。引き裂かれる家族が再び会える日が来るかどうか、誰にも分かりません。そんな報道を前に、皆さん一人一人、思いを込め、平和の訪れを祈りましょう。

 三つ目は、家族を大切にする思いをいっそう強くすることです。平和への歩みは、何より一番身近な人を愛することから始まるのではないでしょうか。例えば家に帰ることができるならば、家に帰って家族との時間を作り、その時間を大切にすること。それはこの世の平和の尊い一歩ではないですか。

 

私は三人兄弟の三番目です。一番上の兄は私が12歳の時に家を出て、大学に進学していきました。ということは五人家族でしたが、五人で暮らしたのはわずか12年だったのか、と今になって思います。しかしその12年はかけがえのない家族の時間で、父や母にとってもいつまでも色あせることのない大切な、大切な時間です。すでに父は他界しましたが、生前、しょっちゅう五人で生活していた頃の話をし続けていました。きっと父にとっても何にも代えがたい、至福の時代だったのでしょう。

 今、皆さんは、皆さんの家庭にとってのそんな時期を過ごしているのではないですか。そして、そんなことを大切にできないなら、何が平和や、とも思うのです。もちろん家族のあり方は様々ですから、一緒に暮らすことだけが正しい姿ではないかもしれませんし、単身赴任などでいつも一緒にいることが難しい家庭もあります。

 

けれども、それぞれの形で、かけがえのない家族を大切にするからこそ、戦争の中、切り裂かれる家族の姿や家を出て避難しなければならない人々の痛みを思うとき、その悲しみや苦しみを深く理解できるのではないかと思うのです。このように、今、家族を大切にすることから、私たちの平和の歩みを進める思いを皆さんとも共有したいと願います。そして平和を思い、彼の地に戦災孤児を出してはいけない、家族の愛に満ちた生活に再び戻したい、と心から願います。

ロシアのウクライナ侵攻にあたって、せめてもの希望を挙げるとしたら、それは世界中の多くの人たちが平和の尊さに本心から目覚め、自分が平和のためにできることを考えていることでしょう。

先日、皆さんの平和を願う思いを自由に書いてほしいと、校長室前のボードを開放しましたが、メッセージを貼り付けてくれた人もいることでしょう。ありがとう。そこに思いを書き、貼り付けるということも、平和へのアクションです。こうしたことも、今の私たちにとっては、大切な一歩であることを信じます。

 

さて、最初に話した「カムカムエブリバディ」では、京都の太秦(うずまさ)映画村をモチーフにした撮影所が出てきます。ドラマの中の時代劇で、ヒーローが口にする決めぜりふが度々出てきます。

「暗闇の中にしか見えぬものがある。暗闇の中にしか聞こえぬ歌がある」

暗闇 それは真っ暗で周りがどうなっているかも分からない、不安を募らせる場所です。

暗闇は静寂で、なにもかもがおぼろげです。しかし、だからこそ暗闇においては、かすかで小さな明かりにも気がつくのです。

普段は気にも留めない、誰も気付かない、小さな明かりも暗闇の中では存在が明らかになるのです。それは暗闇の中でしか見えない、時に唯一周りを照らす、希望の明かりともなるでしょう。

 

私たちの校名である「啓明」という言葉が、明けの明星、金星であることを皆さんは知っていますね。明けの明星、それは夜が明ける前の一番暗い夜空に輝き、間もなく朝がやってくるよ、と告げ知らせる、小さな星です。

啓明学院は、元々、パルモア女子英学院と言いましたが、1941年、いよいよ太平洋戦争に突入するというとき、それまでの校名、パルモア、という名前が敵性語として使えなくなるという事態に直面しました。戦争の影響がいっそう強まったある日、先生たちが新しい校名を考える会議をこれから開くということを、当時の生徒たちが聞きました。慣れ親しんだ校名を変えなければならないことに心を痛めた生徒たちも、ならば自分たちも新しい校名を考えようと、志のある生徒で集まり、自分たちもアイデアを出し合ったそうです。

このことは当時、生徒の一人で、私が勤務し始めたころ、カウンセラーとしてお勤めになっていた春子・ギャンブリン先生に教えてもらったエピソードです。生徒たちは三つほどの候補に絞り、それを春子先生は代表して、会議中の先生達に渡しに行ったそうです。すると、応対してくれた先生がとても驚いた顔をされたというのです。みんなが考えたアイデアの中に、今、自分たちが出している案と同じ言葉がある、と。

それが啓明であったというのです。

戦争が迫ってくる不安の中、たとえ夜の暗闇に覆われていようとも、必ず希望の朝はやってくる。そういう希望と平和への願いを込め、新しい学校名は明けの明星を意味する「啓明」と名付けられていったのです。このような由来も持つ、啓明学院中学校で学んだ皆さんにも、平和を実現する者としての期待と使命があることを今一度、心に留めてほしいと願います。

 

皆さんがその一歩を、先ほどお話しした三つのこと、「知ること」「祈ること」「家族を大切にすること」から始めることにより、その先に平和への道が続いていくことを信じます。その先、というのは皆さんが進もうとする政治や経済や商売、法律や文学、音楽や美術、技術開発や医療、教育や福祉など様々な分野です。きっとそれぞれの場で、皆さんにできることがあるでしょう。

そこで必要な力をいっそう自分のものとするために、次のステップ、高校での歩みが用意されていますね。高校では、ますます聖書に示される隣人愛を実践する機会も増えてくることでしょう。たくましく成長していく中で、与えられたタラントンを活かすことが求められていくことも多いことでしょう。

 その機会を逃すことないよう、気づきと他者へ、特に苦難や弱い側に立たされる人々の思いやりをもって、自らに与えられた力を神様と人へと奉仕することに用い、何より神様の平和を実現するために行動する皆さんであってほしいと願います。

課題の多い時代に高校生活を過ごす皆さんに必要なことは、チャレンジ、チャレンジ、チャレンジ、です。失敗を恐れず、チャレンジし続けることです。その土台はしっかりと造られました。チャレンジの先に、なりたい自分が待っていることを信じましょう。

 

これから、皆さんに卒業証書を一人一人手渡します。それは、皆さんがこの啓明学院中学校で学んだこと証しです。胸を張って誇りをもって受け取ってほしい。そして、この啓明学院が大切にしている人間のあり方を、皆さん自身が体現する高校生活を送ってくれることを心より願っています。皆さん一人ひとりの前途に、神様の祝福とお導きが豊かにあるよう祈りを込め、これを式辞といたします。

 

 

2022年3月14日

指宿 力

 

 

 

 

 

「平和を願う皆の思い」を集めた掲示板の前で

理事長、育友会長、金星会長、校長