KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

夏休みのチャレンジを活かそう

2022年7月21日

7月20日(水) 1学期終業式のメッセージ

 

いよいよ1学期を終業します。思うようにできなかった、これまでの2年間を経て、この1学期は形を変えるなどしながらも、ほとんどの行事を予定通り行うことができたことを嬉しく思っています。

明日から夏休みが始まります。現在、新型コロナウィルスの陽性者数も増加傾向にありますので、十分に健康に気をつけて過ごしてほしいと願っています。

夏休みには、海洋冒険キャンプ、中3・中2の青島キャンプと、三つの大きなキャンプを行います。一人一人が積極的にプログラムに参加することはもちろん、仲間との時間を大切にして、かけがえのないものとしてください。リーダーとして参加してくれる人もたくさんいます。よりよいキャンプ実施のために、皆の力を精一杯注いでください。後輩達の喜びを自分の喜びにできたとき、リーダーの皆さんも自分自身の成長を実感できることでしょう。頑張ってください。

 

そして、去年から始めたサマープロジェクト、今年は13のプログラムを実施します。参加する皆さんが、チャレンジした者ならではの喜びを味わってくれればと願っています。「延べ参加人数」も300名近くいますので、サマープロジェクトは、すでに夏の行事の看板メニューとなったとも言えるでしょう。

校外に出かけていく企画も多くあります。参加する皆さんは、それぞれの場で、啓明学院代表の意識をもって、安全に、実りある経験をしてください。

 

ところで、最近、楽しみにしているドラマがあるので、そのお話をします。毎週日曜日の夜に放送、配信されている、「拾われた男」というドラマです。これは俳優の松尾 諭さんの、ほぼ自伝と言われるドラマですが、観ている人はいるでしょうか。

 松尾さんは関西学院大学総合政策学部に入学後、役者を志し、大学を中退して役者になった方です。顔を見たら、ああ、あの人か、と誰もが思うでしょう。ドラマでは、若き日の、まだ芽の出なかった時代のエピソードがユーモラスに描かれています。きっとその頃は、貧しく、不安ばかりの毎日を松尾さんは送っていたことでしょう。

 松尾さんの家は、もとは西宮市の武庫川団地にありました。日曜日には、家族で武庫川の河川敷に出かける、そんな家庭で育ったそうで、放送されたドラマの第1回に、その様子が描かれています。

現地ロケのシーンでは、阪神電車に近い武庫川河川敷で、家族でピクニックをしている様子が撮影されていました。私も西宮で育ち、武庫川沿いに家があったので、シンパシーを感じています。

 帰省のシーンなど、武庫川が映るたびにテンションが上がります。私にとって武庫川はかけがえのない場所で、いろいろな思い出が残っているところです。

子供の頃の遊び場がありましたし、大学時代は一時期、通学路でもありました。幾度となく、ボーッと長い時間を過ごしたところでもあります。ロケがされていたあたりは、私がハゼ釣りによく行っていた場所です。

武庫川と仁川が合流する辺りから河口までは、友人達との遊びのテリトリーだったのです。

 

そんな武庫川には楽しい思い出もたくさんあるのですが、絶対に忘れられない悔しい思いが残っています。

遊び慣れた場所には、小学生の頃、大人に言われていたのですが、「子供一人では行ってはいけない」ところもありました。たとえば、絶対に川の中に入ってはいけない、というルールがありました。

 武庫川は川幅の広い大きな川なので、水がゆったり流れているように見えます。川というものは、水面近くと川底の流れが異なるところもあるようで、いったん足をすくわれたら、なかなか立つことも難しいのです。大人達はそんなことを子供達に教え、私達もその教えを守っていました。

 

 小学6年生の夏を迎える、ある日の夕方、友人らと自転車で武庫川で遊んだ帰りに、顔見知りの4年生の数人が武庫川に向かっていくのにすれ違いました。自分がちょっと年上ぶりたかったのだろうと思うのですが、子供だけで行くのは危ないよ、川には絶対入ってはいけないよ、暗くなる前に帰りなよ、そんなことを言ったのを覚えています。4年生のメンバーの中でも、とくによく知っていたHくんは、ニコニコ笑いながら、大丈夫、大丈夫だよ、と言って手を振って行ってしまいました。 

それから2日後のことです。ちょうど同じくらいの夕方の時間でした。

武庫川沿いにある私の家の周りに、警察官や消防の人たちが車を停めて、慌てて武庫川への歩道橋を渡っていく姿を見かけました。なにがあったんだろう、と家に帰って親に話しました。

しばらくして父親が帰ってきて、どうやら川で子供が流されたらしい、誰かはわからない、と教えてくれました。頭にH君のことがよぎりました。そして翌朝、新聞で、恐れていたことが実際に起きたことを知りました。

Hくんはその日、一人で武庫川に行き、あろうことか川の中に入り、流され、帰らぬ人となったのでした。

 

今でも、年下の彼にもっと強い調子で、子供だけで行くな、川には絶対に入るな、と言えばよかったと思います。事故の後、ご家族は引っ越していかれたので、お父さんお母さんがどうされているかわかりません。もしお目にかかって、お前のせいだと言われたらどうしよう、とまで思っていたことも覚えています。

 以前はよくこのことを思い出していたのですが、次第に思い出もぼんやりしたものになっていました。しかし、ドラマで武庫川を観て、最近また思い出すようになっているのです。

 あの日に戻ってHくんに話しをすることはできません。しかし、こうして中学・高校生の皆さんに、思い出を語りながら、川や海の怖い一面を話すことは、今の私にできることです。夏は川遊びや海遊びのできる楽しい時期です。その一方で、川や海の恐ろしい一面があること、この程度なら大丈夫、とたかをくくるような無邪気さが、あっという間に人の命を奪うことを皆さんと共有したいと思います。

 

川は雨が降った後に、急に水かさが増えたり、鉄砲水がやってきたりすることもあります。普段は穏やかな小さい川である東灘区の都賀川で、2008年にたくさんの人が流され、5名の方が亡くなったことは、まだ新しい記憶です。あの日もよいお天気だったのに、急な雨にあっという間に水かさが増え、大勢の人たちが逃げられなくなったのです。雨が降ったら、川べりからすぐに離れることは鉄則です。

 様々なことにチャレンジをしようと考えている皆さん、何をするにしても、想像力を働かせ、くれぐれも気をつけるべきことには、注意深くいてください。

 そして皆さんも、あの時、話をしておけばよかった、こうしておけばよかったというような、後悔を残すことのないようしてください。今言えることを、今きちんということ、今しておくべきことをしっかりとやっておくことの大切さを心に留めてほしいと願います。会いたい人には会えるときに会っておく、というのも大切ですね。

そういう意味でも夏休みならではの時間は大事です。二度とない2022年の夏を、元気に、有意義に、暑さも感じながら、楽しんでほしいと思います。

 

今の日本では、皆さんが望んでいるチャレンジができますが、地球上にはそうではない場所が依然としてあります。ロシアのウクライナ侵攻は、まだ今も継続していますし、シリア紛争による影響によって、再びISが台頭し始めている地域もあるとの報道がありました。

 どうか皆さんが世界で起こっていることにも敏感でいて、苦難の中に置かれている人のために祈り、行動できる存在でいてほしいと願います。

このような時代に生きるからこそ、過去に起こった出来事にも目を向けることによって、今を知り、皆さんが歩もうとする未来をどのように作っていくべきかを考えてほしいのです。

 皆さん一人一人には、本当にたくさんの才能や力が神様から与えられています。それを活かし、平和な、神様の願う世界を作る人として、しっかりとした力をつけてください。

行く先々、出会う人たちにとって、皆さんが地の塩、世の光として、よい行いをなし、周りを照らす希望を与える存在となることを何より願っています。

 

先ほどお話ししたドラマ「拾われた男」は、松尾さんが路上で落とし物を拾って警察に届けたところ、落とし主が大手のモデル事務所の社長さんで、その縁で松尾さんの芸能界との関係が生まれた、というエピソードから始まっていきます。これは実話だそうです。

それは小さなよい行いから、志していた道が開かれるという教育的なエピソードです。

思いもかけない出会いに、考えてもみなかった、さまざまなできごとに巻き込まれていくうちに、夢見ていた俳優になっていたという松尾さんの姿に、自分の願いや考えばかりにこだわるのではなく、柔軟に生きる中に、チャンスが与えられたり、なりたかった自分をそこに発見できたりすることもある、というメッセージがあるように思います。

自分の思い込みやこだわりから開放されたとき、開かれる世界はどれほど大きなものでしょうか。その先にどんな自分が現れるのか、考えるだけでも楽しいものです。

 

この夏休みに備えられたチャンスを活かして、グッと成長した皆さんと、2学期に会えることを楽しみにしています。

 

指宿 力