KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

中学校卒業式 式辞

2023年3月16日

2022年度啓明学院中学校卒業生の皆さん、卒業おめでとう。

 

卒業生の皆さん、皆さんが啓明学院中学校に入学した2020年は、まさにコロナ初年度、私も校長就任1年目でした。

すべてにおいて完璧な対応ができたわけではなかったもしれませんが、今日までおこなってきた取り組みには、啓明学院の教育の本質を手放すことのないように、制限のある中ではありますが、誠実に行っていこうという教職員皆の切実な思いがありました。皆さん一人一人をほかのどこでもない、啓明生として成長させていきたいという保護者の皆さんの祈りと願いがあったことを、しっかりと心に留めてほしいと願います。そのような多くの祈りと願いの中の皆さんの3年間はどうだったでしょうか。

 

私は本当に啓明らしい中学生活を見事に送ってくれたと思っています。皆さん一人一人が魅力ある啓明生として立派に育ってくれていることは、何より私自身が先日の校長面接で感じることができました。

皆さんとお話しした中で、「なぜ啓明学院を選んだのか」という質問をしましたね。中学受験の人も、編転入の人も、「啓明でやってみたかったこと、あこがれていたことなどがあって、啓明の門を叩いたんだ」ということを教えてくれました。

 

授業に興味を持った人もいれば、キャンプやクラブ活動、駆け足などに挑戦したい気持ちを持って受験した人たちもいました。コロナの影響で最初はなかなか実施が難しかったこともありましたが、それぞれにその経験ができてよかった、ここに来てよかったと話してくれた人たちがたくさんいたことは、とても嬉しいことでした。充実感に満たされたその思いは、きっと一人一人がその時その時に頑張ろうとした努力の成果であったのでしょう。また、時にはしんどいことがあっても歯を食いしばって頑張ったり、物おじせず勇気を持って飛び込んだりした結果なのでしょう。

 

今、3年間を振り返って、かつての自分に声をかけてあげるとしたら、どんな言葉でしょうか。「あの日の決心のおかげで、今、本当によかったよ」と一人一人が思えていたらとも願いますが、「いやあ、まだまだあの日の自分の思っていた自分にはなれていない、実はまだほど遠いよ」という人もいるかもしれません。それはそれで当然です。「今はまだ、何もかもが充実して満点だ」と言えなくてもいいでしょう。

 

けれども、かつての自分の思いや願いを決して忘れてはいけません。むしろ、それをもこれからの新しい歩みの力にしたらよいのです。そしてそのうえで、この中学卒業を迎えた今、未来の自分に向かって、これからどう歩んでいくのか、よく考えてほしいのです。これまでもそうであったように、なりたい自分を作っていくのは、いつだって、今の自分です。

今の自分が、思いにかなわないことをするならば、なりたい自分に近づくことはむつかしいことでしょう。今の自分が、なりたい自分への一歩を踏み出さなくては、けっしてそこに到達することはできないのです。

その意味で重要なのは、いつだって、今なのです。

 

先日、京都大学の前総長、山極寿一先生の評論を読み、大変感銘を受けました。それは東京で行われた人文知応援大会で話された基調講演を御自身で纏められたものでした。そのタイトルは「人類はどこで間違えたのか」というものです。

有名なことですが、山極先生は霊長類学の専門家です。ゴリラや猿の研究を通して、現代の私たちが抱える課題について、多くのメッセージを発信している研究者です。私が読んだこの評論は、「人類は進化の勝者、という考えは間違っている」という指摘から始まります。

 

人類に最も近いとされている類人猿は、高い繁殖能力などを持って勢力を伸ばし始めたサルに押される形で森から追放され、肉食動物からも狩られる存在だったそうです。追い出されて始まった草原での生活は、速さでも敏捷性でも劣る二足歩行への移行を伴いました。そのお陰で手は自由になり、食物を運んだり、やりを持って狩りをしたりするようになっていったのです。

 

集団の規模が大きくなっていく中で、人類の祖先が互いの身を守るために身につけていったのが、社会力でした。社会力は、人類が互いの関係性を知り、即座に気持ちを理解し合う共感力によって鍛えられました。歌や踊りなどは、その触媒、皆をつなぐ大切なコミニケーションツールになっていったのです。やがて言葉が生まれ、農耕や牧畜など食料生産が始まります。それは大きな進化の歩みですが、一方で、それは自然環境に手を出すということでした。人間を主役にして環境を作り替える考えが主流になっていったのです。

定住や所有を行う中で、個人や集団の間に争いや支配者が生まれ、やがて大規模な戦争が行われるようになっていきました。その争いで死亡する人の割合は、3000年から5000年前に最大となったそうです。

 

そんな下克上の世の中を生き延びるため、キリスト教や仏教などは世界宗教となっていったのです。しかし、争いは止まず、支配者は言葉を巧みに操って武力を強化し、社会の外に共通の敵を作って団結する仕組みを作っていきました。

 

産業革命は人工の動力によって人々の暮らしを拡大することに成功しました。生産性を向上させ、効率化を進めたことによって、過剰な物欲思想をもたらしました。その結果、海外に出かけて領土を広げたり、自分のところにはない産物を独り占めしてやろうとする植民地主義が始まったりしたのです。植民地主義は、生まれ育ちや外見で差別する考えをもたらし、それは今でも根深く残っています。

 

山極先生は、「そんな歴史の中で、私たちは過去には戻れない、と思い込んで、ひたすら前を向いて生きてきたけれども、そろそろ過去の過ちを認め、共感力と科学技術を賢く使う方策を立てるべきだ」と言います。

「それには言葉の持つ力を正しく認識し、言葉以外の手段を用いた共鳴社会を作ろうとしていくことが必要だと言うのです。

 

この指摘は、この時代にあって、本当に大切なことだと思うのです。今も、戦争は行われているし、その前になすすべのない私がいます。自然災害はいったん起こってしまったら、人の手で止められるものではありません。パンデミックは多くの学びを与えてくれましたが、今日に至るまで、それは多くの困難や災禍をもたらしました。

それらはけっして誰も望まないものです。たとえ現実がそうであっても、戦争のない世界になってほしい、災害の渦中で困っている人に助けが行き届いてほしい、困難や災禍に苦しむ人の上に平安が訪れてほしい。我々はそう願っているのではないですか。それは他者の痛みや辛さに共感する思いから始まる願いです。

 

しかし、当然、こんな世界になってほしいという共通する願いがあっても、今の私たちが、勇気と愛を持って歩み出さなければ、そこには永遠に到達することはないのです。願う未来に向かって歩み出すということは、私たちがよくしがちな「この程度のことで何が変わるのか」という諦めや、小さな取り組みを小馬鹿にする態度とは180度異なった行動です。

 

皆さんの啓明学院中学校での日々は、聖書と共にありました。聖書の御言葉は皆さんの日常を励まし、よりよく生きる道を示し続けてくれるものでした。これからも大きな力を与え続けてくれることでしょう。そして聖書には、皆さん一人一人は、望み、願われて生まれてきた大切な一人であり、この世界をよりよいものに作り替えていく大切なミッションを任されている存在であるというメッセージがありました。小さくされている人々を大切にすること、すべてのことに感謝すること、弱いときにこそ強いこと、見えないものに目を注ぐこと。

真理を根底に秘めた聖書の力強い言葉によって、それは紡がれ、自己中心的な思いで競い合うのではない、違いを持った人たちとも共に生きる世界を創り出していく道が、聖書には示されているのです。

 

その道に向かって少しでも歩みを進めていくことが、啓明学院に連なる私たち一人一人に期待されていることであり、委ねられた大切なミッションです。このことは常に語られてきました。その言葉を聴く皆さんには、これからも聖書の語る言葉を心の土台に据え、神様に期待されている歩みを雄々しく進めてほしいと願います。

聖書の御言葉は、きっと皆さんの心の深いところにある、本来自分がなりたい誠実な自分作りへの道へと導いてくれることでしょう。

そしてそれは、共感力と多岐にわたる学びを深める皆さんが、より良き未来を創成する歩みを導いてくれることでしょう。

 

皆さんは、一人一人が期待されている、与えられた自分自身の力を、神様の願う公平で公正な世界を創り出すために用い、他の人々の思いに寄り添い、共に生きようとする道を歩んでいます。世界が抱える課題の多い時代に高校生活を過ごす皆さんに必要なことは、チャレンジ、チャレンジ、チャレンジ、です。失敗を恐れず、チャレンジし続けることです。

 

皆さんの土台は、この啓明学院中学校でしっかりと造られました。皆さんのチャレンジの先に、なりたい自分が待っていること、よりよい世界が開くことを信じましょう。そのチャレンジをするのは、いつだって、今の自分です。

 

この後、皆さんに卒業証書を一人一人手渡します。それは皆さんがこの啓明学院中学校で学んだこと証しです。胸を張り、誇りを持って受け取ってほしい。そして、この啓明学院が大切にしている人間のあり方を、皆さん自身が体現する高校生活を送ってくれることを心より願っています。皆さん一人ひとりの前途に、神様の祝福とお導きが豊かにあるよう祈りを込め、これを式辞と致します。

 

2023年3月14日

指宿 力