KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

好奇心をもって「穴だらけの世界」を埋めていこう

2023年3月29日

2022年度3学期終業式のメッセージ

 

皆さん、おはようございます。今日、2022年度の終業式をこうして迎えることができていることに感謝したいと思います。今年度はキャンプでの宿泊も再開し、行事も保護者の方々と共にできることも多く、学校生活もずいぶん落ち着いてきた1年だったように思います。

海外に行くプログラムも再開していきますが、明後日からアメリカ、シアトルでの語学研修に行く皆さんはどうぞ気を付けて、そしてよい経験を積んできてください。夏にはイギリスに行くプログラムも予定して準備を進めています。近々案内しますので、高校生の皆さんは楽しみにしていてください。

 

また、先日、インドからの留学生として高校1年生とともに学んでいたアディティさんが、皆さんにお別れし、帰国しました。この出会いに感謝したいと思います。数学好きなアディティさんは、日本語の習得も驚くほど早かったですね。軽音楽部のステージでも、どうどうと日本語の歌詞で歌っていたそうですが、彼女の学びへの姿勢に見習うことはたくさんあったと思います。身近にいた人たちは、今後ともよい繋がりを持ってください。

 

3月13日からマスク着用は個人の判断で、という流れが始まっています。このことを受け、次年度からは学校での取り組みも変わっていきますが、引き続き一人一人の意識を高め、皆で協力して、安全で安心できる学校としていきましょう。よろしくお願いします。

 

1年の締めくくりとなる3学期の終業式を迎えるにあたり、一人一人、自分一人の時間を作って、落ち着いて振り返りをしてみましょう。あれ、楽しかったな、これ、もうちょっとこうすれば良かったな、など良かったところと反省点を見つけられたら、それだけでも次につながる大きな一歩となることでしょう。

 

さて、世間で今、大きく取り上げられているのがWBCワールドベースボールクラシックですね。日本チームは今のところ一度も負けず、快調に準決勝まで進んでいますが、明日が準決勝でメキシコ戦ですね。アメリカの球場でも、これまでのような試合をしてくれたらと思います。

 

我が家でも、これまでの試合はほとんどテレビで観ているのですが、出場している選手の中でも、やはり大谷選手の活躍が本当に素晴らしく、彼が出てくるたびにワクワクさせられています。3月12日に行われたオーストラリア戦では、大谷選手自身が映し出された看板に、特大のホームランを直撃させました。この時の映像を見ていた人はいますか?それでは、あれは何という会社の看板だったでしょうか?

 

セールスフォースですね。セールスフォースはアメリカ・カリフォルニアに本社を置く、クラウドサービスの会社だそうですが、高校生は覚えているかな。先日の礼拝で、私が奨励をしたときの二つ目の動画がこの会社のコマーシャルでした。

 

あのとき紹介したのは、フェイスブックやインスタグラムを持っているメタという会社がVRゴーグルのサービスに力を入れていることや、テスラなどの社長のイーロンマスクさんが火星移住計画に心を奪われていることをからかうようなテレビCMでした。

 

セールスフォースのCMには、ゴーグルをつけてメタバースのような仮想空間で過ごすことや、ロケットで別の星に飛んでいくことよりも、この地球で地に足をつけて今を大切にしよう、というメッセージがあることを紹介しました。この会社は今回のWBCのスポンサーにもなっているので、けっこうロゴなどを見ている人も多いと思うので、それをきっかけにどのような会社かな、と調べてみた人はいるでしょうか。

 

私たちの周りには、このような広告やコマーシャルが溢れるほど流れていて、実際にはあまり名前を知らない会社や分からないことをしている会社は、ほとんど記憶に残らないかもしれません。私自身も、テレビなどで観る広告でいったいこれは何のコマーシャルか分からないことが多々あります。そしてその分からないということに何の疑問もなく、そのまま放置してしまっています。皆さんもそうではないでしょうか。分からないことにいちいち疑問を持って調べだしたら、たちどころに日常生活は滞ってしまうかもしれません。

 

これは、神戸女学院大学で教鞭を執っておられた内田樹さんがその著書の中で指摘していることにも繋がります。「女学院で教えているときに、学生たちがわからないことがあっても気にしないことがものすごく気になっているんだけれど、それは学生たちには『読み飛ばし能力』というのがあって、しかも今の若者は想像を超えるくらいこの能力が発達している」と書いています。

 

理解できない情報を読み飛ばす、スキップするというのは人間の知性の特徴で、私たちは溢れる情報の中でも自分に意味のないものを無視することができるのです。それはコマーシャルで流れてくるもの程度であれば大きな問題ではないのでしょうが、「知らないままでいいこと」と「これは知らないとまずいこと」が私たちにはあるはずです。その区別ができなければ、知らないとまずいことはどんどん膨らんでいってしまいます。それはまずい結果につながることは言うまでもありません。そんな指摘をする内田先生は、知らないことのある世界を、穴だらけの世界と言っています。

 

しかし、穴だらけの世界をそのままにしておくとまずいことになるはずです。だから、そのままにしておくとまずいことになることに対しては、その穴ぼこを埋めていかなければなりません。そして、その穴だらけの世界を埋めていくことは、私や皆さんにとって学びということに直結するものですね。

 

皆さんが授業で出てくる言葉や大事なポイントが、読み飛ばし能力でスキップされているとしたら、それはきっと望まない結果に繋がっていることでしょう。知っておくべきことだったり、覚えておくべきポイントだったりを、穴ぼこ状態のままにしておくと、そのツケはかならず後でやってくるからです。

 

今日、この後、それぞれに通知表が配られます。そこには様々な記録が記されていますが、一番気になるのは成績のことですよね。それを見て、1年間を振り返り、自分の学びがどうであったかを考えるとき、ぜひ、このことを念頭に置いて考えてみてほしいと願います。知らないとまずいことをそのままにしていなかったか、ということです。ぜひ、そのことを顧みながら、4月からの学びにつなげていきましょう。

 

そしてもう一つ、大谷選手のホームランが当たった看板のことですが、それが何という名前の会社だろうか、

そしてそれはどんなことをしている会社なのか、というように、知らない何かに一歩踏み入れようとする皆さんであってほしいと願っています。

 

それは好奇心、とも言います。目の前に現れても、持ち前の読み飛ばし能力でスキップするようなことの中に、もしかしたら面白いことや自分を知らなかった世界に導いてくれる何かが潜んでいるかもしれません。わけの分からないコマーシャルを見ても、いったい何の会社なのかな、と検索してみたり、よい音楽を聴いたとき、このミュージシャンはどんな人に影響されたのかな、と遡ってみたり、授業中に面白い話もしてくれる先生はどんな本を読んできたのかな、と訊いてみたり、目の前に現れた知らないことや不思議の原因を調べてみたり、当たり前のように使っている言葉でも、それがどんな由来を持っているかを探ってみたり、なんとなくやり過ごしてきたことに引っ掛かりをもってやろうとする好奇心は、きっと思ってもみなかった道を拓いてくれたり、出会いを与えてくれるに違いありません。また、それはワクワクを与えてくれるものに違いありません。啓明学院は、そんなみんなの好奇心を刺激する学校でありたいといつも願っています。

 

今日、読んでもらった聖書の箇所は、今年度、何度も読まれた年間テーマ聖句でした。もう覚えてしまった人もいると思います。『子たちよ、言葉や口先だけでなく、行いをもって誠実に愛し合おう』です。「やります」、「やりました」という口先だけではなく、実際に自分の手を動かし、足を運ぶことをする中で、神様の願う世界を創るために愛の実践を勧める聖句でした。これからの自分自身の人生の指針の一つとして、ぜひ心に留め続けてほしいと願います。

 

手を動かし、足を運ぶことから、愛が行いとして現れる、というこの聖書の言葉は、私たちが実際にこの手を用い、足を運んで新しい世界を拓こうとする、前向きな姿勢が待ち望まれていることの大切さを語るものでもあるからです。

 

1年の学びを終えようとする今日、次の年の歩みへそれぞれ決意すること、新しい学年への目標を立てることの土台に、啓明学院の生徒が神様から託されている、よりよい世界を創り出していく使命を受けている、という自覚をもって、2023年度のスタートを雄々しく始めましょう。期待しています。

 

 

2023年3月20日

指宿 力