KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

自らの命をどう使うのか

2023年7月20日

1学期終業式のメッセージ

 

3年間続いた感染症対策も、5月8日の新型インフルエンザ等感染症扱い、いわゆる2類相当から5類感染症とした変更に伴い、学校生活もほぼ以前の状態に戻ってきたので、私にとってもいろいろな場面で、皆さんの伸び伸びとした姿を見ることができた嬉しい1学期でした。

 

学期末にはそれぞれの学年で講師をお招きして講演会を行いました。中学1年生の講演会には、卒業生でラグビー選手として頑張っている古賀由教(よしゆき)さんに来てもらいました。古賀さんはトップリーグのリコーブラックラムズというチームの選手で、現在、ラグビー男子セブンスチーム(7人制ラグビー)の日本代表選手でもあります。

この時、古賀さんから啓明の皆さんへと日本代表のユニフォームをいただきました。校長室前に飾っておくので、ぜひ観に来てください。古賀さんは今、怪我をしてリハビリ中なのですが、これからの活躍を皆で応援していきましょう。

 

さて、今日、1学期終業式を迎え、いよいよ明日からは長期休暇に入ります。それぞれに自分の1学期を振り返り、夏ならではの経験をし、学びを深める夏休みとしてほしいと願います。学校が主催するキャンプやサマープロジェクト、高校生の中にはイギリス研修などに参加する人もたくさんいます。クラブ活動に励む人も、自分で決めた大きなチャレンジに取り組む人もいることでしょう。どうぞ一人一人、この夏休みの日々も、健康と安全に留意し、その上で啓明生ならではのチャレンジ精神を発揮して、有意義に過ごしてください。

 

たっぷり時間があると思っている夏休みでも、計画を立てていなければ、あっという間に時は流れてしまうものです。たとえば、本は何冊読もう、とか、毎日これだけはやろう、とか具体的な目標を立てることは、日々を充実させる工夫の一つです。そして心に決めたことをご家族の方や友達、先生に宣言することは、自分を律する第一歩となると思います。

夏休みに目標を持とうとか、計画を立てよう、ということは当たり前かもしれませんが、実際は立てた目標をやり遂げることは難しいという人の方が多いかもしれません。だからこそ、夏休みに入ろうというこの時に、目標を実行するためにしっかり計画を立てる、という準備が大事です。

具体的な計画を立てること、そしてそれを宣言することは、自分の生活をその時の自分の思いによって動かすのではなく、計画で動かす方法に繋がります。人にはやる気になる日があったり、気分が乗らない日があったりします。継続することの難しさはそこにあります。

だから、計画したことを計画通り行うことを自分の気持ちを入れずに続けるのです。これは生活の仕組み化とも言いますが、流されやすい人はもちろん、どんな人にも効果のある方法です。計画を達成できた人は、きっと自分が思っている以上に自分の成長を感じる時がくるはずです。ぜひ、実践してください。

 

私も夏に向けて何冊か本を用意しています。今は読むのが待ち遠しいくらいですが、夏休みに読むと計画したものなので、今はまだ机に置いたままです。この中には知見を広げるために読みたい本と、ただただ面白そうな本があります。

面白そうな本の筆頭は、穂村弘さんという短歌作家のエッセイです。穂村さんの短歌集はほぼ手元においていて、私はファンの一人です。時折出版されるエッセイには真面目な話もあるのですが、ほとんどがダメな大人の代表のような、ご自分の経験を切々と綴られていて、どれも深い共感を持って楽しく読むことができます。

そんな穂村さんの文章が先日新聞に掲載されていました。そこで穂村さんが指摘されていたことに随分考えさせられたので紹介します。

 

穂村弘さんは北海道のご出身です。お父さんは夕張炭鉱で石炭を掘る炭鉱夫で、しかも戦争で満州にも行った経験を持つ方だったそうです。そしておじいさんは北海道の開拓移民、いわゆる屯田兵だったとのことです。穂村さんは、おじいさんやお父さんの時代と、自分の時代の変わり様の大きさを綴っています。

お父さんの腕や背中には大きな傷があったそうです。それは炭鉱夫として働いている時、炭鉱が崩れる落盤事故があり、お父さんもその事故に巻き込まれて受けたものです。死にかけたのですね。しかも、戦争で満州に行っています。戦争では長い間、いつ殺されてもおかしくない日々を過ごしていたのです。

屯田兵だったおじいさんの開拓生活では、厳しい冬のために凍死の危険があったそうですし、食糧不足による餓死の不安も身近にあり、常に命の危険と隣り合わせだったそうです。さらにこの時代は、人が熊に襲われる事件も度々起こっていました。

 

穂村さんは記しています。自分よりわずか一世代上の人たちまでは、常に命の危険と隣り合って国を作り、国を守ろうとしていたにも関わらず、その下の世代である自分はその人達が作り上げた世界で、ただただ、できたものを使うユーザーとなって、消費しかしない世代なんだと。皆さんは、さらにヘビーユーザー化している世代と言えるかもしれません。

もちろん今もトンネルは掘られていますし、大きな工事はどこでも行われています。それでも、そのようなことがかつては人の力でほぼ行われ、常に命の危険と隣り合わせだった頃からすれば、今の時代は安全基準が大きく変化し、危険もゼロではないけれども、人の命が最優先とされるようになりました。

そんな時代なので、もしかしたら、今の私たちは命を守ろうとする意識も他人任せになってしまっていて、危機察知能力も弱くなっているのかもしれません。穂村さんの文章には、次のような短歌も紹介されていました。

 

受話器からここにはいない人の声

聞こえているのは凄いはずなんだけど

 

凄い発明であったはずの電話の技術さえも、それを今、使う自分には電話を使えるようになってよかったという幸運や幸福の実感はないし、今の自分は無表情でスマホを眺めているにすぎないと、穂村さんは締めくくっています。

この文章は、今の時代、凄く進化して、とても便利になった、そして平和に過ごせる、そんな日常を過ごすあなたは、生きているという実感、リアリティをどう感じて生きているのですか、と語りかけているように思えました。

 

蛇口をひねれば水が出る、三宮から妙法寺に行くためにトンネルを走る電車に乗る。私たちの住む世界はとても便利です。今日の私たちには、敵の飛行機がやってきて自分の住む街にミサイルを落とされたり、機関銃で襲われる心配もとりあえずはありません。

しかし、ほんの少し前の世代の人々には、水は川や井戸に汲みに行かなければならないものだったし、空襲におびえる日々はここ神戸にもあったのです。

JR三宮駅の橋桁には、戦争中の機銃掃射のあとが今も残っています。そのような戦争の爪痕も実は簡単に見える場所にありますが、そういったものを見ると、この神戸でも激しい空襲があったことを実感させられます。

 

確かに生きている実感、リアリティというものは実際に傷ついて痛い思いをしたり、大切なものを失ったりしないとわからないことなのかもしれません。それでも啓明に学ぶ皆さんには、想像力という無限に広がる自由な力を働かせて、生きている自分を本当に大切してほしいと願います。生きている自分を大切にするということは、命そのものである、時間を大切にするということです。時間は命だからです。

一人一人に平等に与えられた一分一秒ですが、それを使える時間の長さは平等ではありません。その限られた命の時間をどう使うのか、何に用いるのか、ということが使命という言葉に戻ってくるのです。その使命とはミッションです。

ただ、自らの命をどう使うのか、ということは自分の中から湧いて出てくるものではないでしょう。やはり、それは周りの状況を知り、学び、感じることからしか生まれないものです。

 

今もウクライナへのロシアの侵攻は続き、日々大変な状況が報じられています。そこにいる人たちの日常は常に命の危険と隣り合わせです。そんな日々を送っている方々のことを心に留め、平和の訪れを祈り続けたいと思いますが、平和のために祈ること以外、私たちに何ができるでしょうか。

きっと何かあると思います。もちろんすぐに大きなことはできないかもしれませんが、たとえば、限られた命を大切にしようとすることは今すぐにできます。

 

命そのものである時間をどう使うのか、ということは私たちが一人一人任されたものだからです。そしてこの夏休みをどう過ごすのかも、皆さん自身に委ねられています。

スマホで動画を観ることやゲームが好きな人もいるでしょう。それがダメだというつもりはありませんが、誰かが作り上げた世界で、ただただ、できたものを使うユーザーとなって、消費しかない、というのは、とてももったいない時間の使い方ではないでしょうか。

皆さんはそのようなことに没頭するためだけに生まれてきたのではないでしょう。きっと一人一人、神様から与えられたミッション、使命があるはずです。

それが何かということは、世の中を知り、歴史や道理を学び、他の人の思いを感じようとすることからしか生まれないものでしょう。この夏休み、ぜひ時間の使い方をよく考えて、いろいろなものと出会い、経験を深め、意欲的な歩みをする自分を作って欲しいと願います。その先にはきっと自分も想像していない自分を発見できるはずです。その一歩を自分自身で具体的な計画を立て、そしてそれを宣言することから始めてみましょう。

それは狭い門から入れ、と言われたイエス様の言葉を実践することでもあるでしょう。滅びに至る道を選ぶのではなく、命に通じる道を選ぶ、自分作りのチャンスです。

 

さあ、いよいよ夏休みです。皆さん一人一人が、二度とないこの学年の夏休みをどう過ごすのか、間近で見られるときもあると思いますし、どう過ごしたのかについて2学期に聞かせてもらうことも楽しみにしています。

もちろん、海や川などでの水辺での遊びには特に気をつけてください。そして犯罪に巻き込まれないよう自分を守ることを忘れないでください。その上で、安全に、そして健康に過ごしてください。では、よい夏休みを!

 

 

 

指宿 力