KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

自らが主体的に決定するために必要な判断や知識を得るための学び

2023年9月2日

2学期始業式のメッセージ

 

皆さん、おはようございます。今日、2学期の始業式を迎えました。

 

学校ではこの夏も多くの工事が行われましたが、校舎外壁が塗り直され、すっかりきれいになりました。

昇降口側壁面の大きな啓明のマークもピカピカになっていますので、まだ見ていない人は帰りにでも見てください。また食堂がリニューアルされ、どこのレストランか、と見まがうほどになっています。

新しいから、というだけではありませんが、皆さんの学校生活が豊かに、より快適になればと願って、こうした改修が行われています。これからも自分の学校を大切に思う気持ちを持って、存分に利用してほしいと願っています。

 

皆さんの夏休みはどうだったでしょうか。クラブ活動に明け暮れた人たちもいるでしょうし、資格や検定に向けて頑張った人もいることでしょう。

久しぶりに行われたイギリス研修旅行には39名の高校生が参加しましたが、啓明のインスタグラムにも連日、写真がアップされていたので、見た人も多いことでしょう。

そして、すっかり啓明における夏のプログラムの柱の一つにもなったと思いますが、サマープロジェクトは先生方による多くの企画が実施され、全校生徒の1/4が参加し、夏休みらしいチャレンジをしました。

その一つ、「コチラとムコウ in 啓明学院」という大塚先生が企画してくれたものには、讀賣テレビの取材が入り、先日、番組が放送されました。校舎と体育館をつなぐ渡り廊下の窓に、向こう側に見える景色を描くというものでしたが、中島麦さんという画家に指導していただいた成果は、今も残してあります。しばらくはそのままにしておこうと思っていますので、皆さんもぜひ、見ておきましょう。

中学2年生の必修キャンプ、青島キャンプは、今年、4泊5日の予定で行いました。

残念ながらA班は台風のため、1日短くなりましたが、中2の生徒たちの頑張りはもちろんのこと、多くの高校生や大学生がリーダーとして支えてくれて、暑い中、無事行うことができました。

また、秋に行われる予定の明星祭の準備や、神戸市社会福祉協議会が主催している福祉体験学習など、ボランティア活動に熱心に取り組んでいた人たちもいます。

家族旅行をしたり、久しぶりにおじいちゃん、おばあちゃんに会った人もいるかもしれません。

コロナの影響が大きかった時期からすれば、過ごし方が変わったことを実感している人もいることでしょう。

それぞれの経験が人生の大きな力となっていくことを願っています。ぜひこれからも前向きにいろいろなチャレンジを行い、豊かな自分作りに励んでもらいたいと願います。

 

さて、夏休みに入る前に、計画を立てることの大切さを話しました。私は、実際には計画通りに本を読むことも難しい日々を送っていました。それでも何冊かの本を手にしたのですが、一番面白い、と思ったのはちょうど一昨日から読み始めたばかりの新書です。

それは「物理学者のすごい思考法」というタイトルの本です。とてもくだけたもので、楽しく読める内容です。著者の橋本幸士さんは、京都大学大学院理学研究科の教授です。実はこの夏に高校2年の眞鍋くんが数学科の宮寺先生と一緒に、橋本さんの番組に出演しています。そんな関係から、橋本さんの名前を辿って手にしたのがこの本です。

 

まだ読んでいる最中ですが、物理学者が素数で興奮するくだりなどは、同じものを見ていても、知識や関心の違いで物事がまったく違って見えることや、そのことの価値は現実世界と必ずリンクするものではないけれども、知識が人生を豊かにすることを教えてもらっているように感じています。

素数は自分と1以外では割り切れない数字ですが、2桁くらいなら見て直ぐに分かる人も多いと思います。

本の中で、1759という4桁の数字を著者が頭の中で素数であると見つけ出す様子が描かれています。物理学者というのは、数字を見るとその意味を瞬時に考えてしまう、そんな特性を持った人たちなのでしょう。

もちろん一覧表がありますから、その表を見たら、その数字が素数かどうかはすぐに確認できることではありますが、自分の頭で考えることに意味があります。皆さんなら何桁くらいまでできるでしょうか。ぜひ挑戦してみてください。

 

しかし、こういったことは答えのある問いでもあると言えるでしょう。素数か素数でないかは、すでにほとんど分かっていることだからです。

調べてみると現在、人類によって発見された最大の素数は2を8258万9933回かけた数から1を引いた数だそうです。コンピューターを使えば、かなり大きな数字まで出せることは分かります。人間の能力をはるかに超えたスピードで正しく計算することは、コンピューターの得意とするところです。コンピューターは高速かつ正確に答えを出すマシンとして作られているからです。それは人間の力などまったく歯が立たない、コンピューターの強みです。

その一方で、ここしばらく話題の中心にあるChatGPTなどの生成AIは、これまでのコンピューターの使われ方よりも、大量のデータを統計処理して「確率の高い解」を求めることに重点が置かれるようになっています。

正しいことではなく、誤りも含めながら、たくさんの情報の中から、指示された内容に沿った、だいたい合っている答えが出るのが、この生成AIの特徴だというのです。

 

これは東大名誉教授の西垣通さんが語っておられたことなのですが、先ほど言ったようにコンピューターは開発された当初から、真理を得るための機械として位置づけられていました。しかし、それが揺らいでいるのですね。けっしてAIが完璧な正しい答えを出す機械ではない、「確率の高い解」を出す時代に入っているわけです。

AIを活用していこうとすると、そこにある真理がどの程度本当で、どんな誤りがあるのか見抜く力が必要になってきたのです。そして、そのような力を身につけるために必要なのが、学びを文系理系に分断しない、新しい時代のリベラルアーツが必要だと、西垣さんはおっしゃっています。

リベラルアーツとは啓明が標榜している学びのあり方です。いろいろな説明の仕方がありますが、手短に言うと「自らが主体的に決定するために必要な判断や知識を得るための学び」です。自分自身の力で正しく選び、よりよい世界を作る知性と力を養うための学びと言ってもいいでしょう。

 

啓明の学びの目的や方向はここにあります。

つまり皆さんが毎日の学校生活での授業や礼拝、すべてのプログラムはそのためにあるのです。

だからこそ、一つも逃がさず、自分の糧とするために、寝ぼけているなんてもったいないのです。

ここでの学びは、皆さんを独りよがりの独善的な人間ではなく、聖書の人間観に基づいた、平和で公正な社会を愛し、そのために与えられた力を発揮し、自分だけでなく、他の人々も共に幸福へと導く人間への一歩一歩なのです。

 

世界に起こっている様々な出来事に目を移せば、問題は山積しています。

ロシアによるウクライナの侵攻は未だ続いています。戦争の時代に私たちはいるのです。

来年の11月にはアメリカ大統領選挙があります。次の大統領は誰でしょうか。日本にも大きな影響を与えるところです。

BRICSという、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国(南ア)の5か国のグループにイラン、サウジアラビア、エジプト、アルゼンチン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアの6つの国が加わり、なおもこのグループに参加したい国がたくさんあると8月末には報じられていました。

新しい時代の勝者を競うレースは違うステージが始まったということです。

日本も汚染水と呼ばれる福島原発から流れ出た処理水の海への放出を8月末から始め、国際的な影響が出ています。

こうした話題をパッと見ただけでも、簡単にはいかない大きな問題や、経済や安全保障の変わり目が目の前にやってきている時代だと思います。

そのような時代に啓明に学ぶ皆さんには、真理を求め、自分の力でよりよい世界を作ろうとする力と志を持つ人となることを共に目指してもらいたいと願います。それもまた神様に一人一人が託されている大きなミッションだからです。

 

そのミッションを果たすためにも、自分に与えられているさまざまなタラントンを目一杯活かし、前向きに学び、チャレンジする皆さんであってほしいと願っています。そこでのキーワードは「主体的に」です。自分で立つ、自立、と言ってもよいでしょう。皆さんの啓明での生活は、そのための自分作りの学びの場なのです。

それは今日の聖書の言葉に示されていた「真理はあなたたちを自由にする」という言葉も、またリベラルアーツの神髄をついた言葉です。その真理に近づく、啓明の学びが、この聖句からも求められているのです。

 

いよいよ今日は9月1日、2学期のスタートです。様々な行事もたくさん予定されている2学期でもあります。

毎日の授業、日々の取り組みにどうぞ啓明生らしく前向きに、精一杯取り組んでいきましょう。

その上で、皆さん一人一人のチャレンジングで、充実した啓明ライフを共に過ごせることを本当に楽しみにしています。

 

また来月10月18日は創立100周年の記念式典が行われます。神戸ポートピアホテルにあるホールで皆さんと一緒にその日をお祝いする予定です。100周年を迎えるこの時に在籍している喜びと意味深さを皆さんと共有できればと願っています。よい記念の日としましょう。

 

では2学期も共に頑張りましょう!

 

 

指宿 力