KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

高校卒業式 式辞

2024年2月19日

卒業生の皆さん、

皆さんの高校入学式は2021年4月、その前年からのコロナ禍のあおりで、まだまだ厳しい感染症対策を取る中での実施となりました。すでに手元に渡された卒業アルバムでもその様子を見ることはできますが、今日のこの形とは大きく異なる、あの時期ならではの入学式でした。

それから今日までの日々、社会も大きく変化する中で、人生でも最も大きな成長と変化の時期を過ごした皆さんの高校生活は、修学旅行を始めとして、前年踏襲とはならないことも多く、苦労もあった分、随分創造的で、新鮮な風を感じるものだったのではないかと思います。

その入学式で、「これから人工知能AIを使いこなす力を身につけることが求められる時代になっていく、だから高校生活において、皆さんには一つ一つの学びをやり抜くこと、もし上手くいかなくても何度でも挑戦しようとする回復するタフさを身につけてほしいと私は願っている」とお話ししました。

もちろんそれは今も思うことではあります。2022年の11月にOpenAIがChatGPTを公開して以来、生成AIのイノベーションは加速度的に進みました。文書作成だけでなく、様々なクリエイティブな作業をAIがびっくりするほどのスピードで、難なくこなす時代へと変化したのです。

 

2022年の2月には、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。2023年の10月からはハマスによる誘拐などに端を発し、イスラエル軍によるガザへの攻撃が続いています。戦争の世紀がまた始まったようにしか思えない、辛く、心痛める状況が今この時もあります。どうか一日も早い平穏な日々を願うものであります。

そして自然災害の多い日本では、能登半島地震が1月1日起こりました。大きな震災となりました。啓明でも生徒会の呼びかけですぐに募金活動を始めました。啓明では昨年、サマープロジェクトとして青木先生が能登町に行くプログラムを企画し、森先生、そして高校生が能登高校を訪問し、現地の方のコーディネイトで能登の魅力を満喫する経験をしてきました。きっと参加した生徒にとっては、いっそう大きな心の痛みを伴う今回の震災だと思います。啓明としてもこのような縁で繋がっている方々を特に覚えながら、被災地への支援を継続して取り組んでいきたいと思っています。

 

そのような大きなトピックを始めとする様々な出来事がこの3年の間に起こっていますが、こうした社会の変化や各地の出来事をほとんどの場合、私たちはメディアの発信するニュースによって知ることになります。個人が発信するSNSも様々な情報を伝えてくれます。新聞、テレビはもちろんのこと、ネットニュース、SNSなども私たちが様々なことを知る大切な情報源となっています。

それらは世界や日本で起きていることを知る入り口です。その入り口にたどり着かなければ、私たちは自分が見える範囲にしか関心を払わない人間となってしまうことでしょう。もちろんそれもまた生き方の一つかもしれませんが、それはあまりに偏狭な人間ではないでしょうか。皆さんにはこれからも敏感なアンテナを持ち、社会の変化はもちろんのこと、世界で起こること、日本で起こることをキャッチして、その柔らかな心で受け止める人であってほしいと願います。

 

情報化した社会には、当然、危険もつきものです。情報には他の人の価値観が紛れるものですから、意識的に物事を俯瞰的にみようとするなど、知識や知性を身に付けていなければ、なぜそれがこう伝えられているのか、なぜこのタイミングで発信されているのかなど、本質的なことに目を向けることなく、与えられている情報を盲信してしまう恐れがあるからです。

メディア側にも情報を得るための源(ソース)があるわけで、その情報をくれる側を悪くは書けませんし、親会社の都合もあるのです。個人の発信は思い違いもあるし、極端な一つの事例が、まことしやかに全体像として伝えられることもあります。Xでは仕様変更によって始まった対価払いのせいで、偽情報が加速的に増えていることが話題となっています。

今年の秋に行われるアメリカ大統領選挙には再びトランプ氏が名乗りを上げています。トランプ氏がどのような政策を打ち出しているかはともかく、彼は在職の末期、自分に代わってバイデン氏が大統領に任命されるタイミングで、SNSを利用してアメリカ連邦議会への襲撃を扇動したと多くの人が考えている人物です。そのためにツイッターのアカウントを永久停止されましたが、そのような人がまたこうして大統領候補になるなんて、まともな感覚では信じられません。しかし、陰謀説と言われるような、トランプ氏を擁護する意見に傾倒し、扇動行為も正当だと見なしてしまう人も一定数いるのです。

 

このようなことが起きている理由について、以前ICUにいて、現在、東京女子大学の学長をされている森本あんり先生は次のような主旨のことをおっしゃっています。

 

「誰もが情報発信できるフラットな社会になって、誰もが信じたいことを信じ、言いたいことを言えるようになった。その一方で、既存の価値観が揺らぐ中、『自分の中で本物だと直感できるかどうか』が正しさの規準になりがちだ。正しいと信じられるものがなくなっても、人は自分でそれを作り出すこともするのだ。」

 

そこに陰謀説が入り込む隙間が生まれるのでしょうし、選挙においても信じる私を表現する場としての応援があり、投票があり、SNSでの発信があり、そしてそういったものが自分をいっそう自己正当化するかたくなさに繋がっていくのでしょう。

 

時代的な様々な変化の中で、正しさの規準が揺らぐことから引き起こることは、今後も私たちの前に露呈していくことでしょう。だからこそ情報の傍らには、情報操作やシンボル操作が常にあることを、私たちは心に留めていかねばならないと思います。アメリカ合衆国憲法も18世紀に作られたときには、まさか大統領が国家への反乱を扇動すると思わなかったでしょう。かつての正しさの規準が揺らぐ中で、私たちはいっそう知性を磨き、理性的であろうとしなければならないのでしょう。何よりそこに必要なのは、伸び縮みしない確かな物差しを自分の内に携えるということではないでしょうか。

 

啓明で日々繰り返し読んだ聖書に記される他者への愛と奉仕の精神は、まさに普遍的な教えを私たちに示すものです。与えられた才能や力を穴に埋めて隠しておくのではなく、それを用い、皆の前で輝かそうとすることによって、それは何倍にもなる、という新約聖書のタラントンのたとえのメッセージ。これは、あなたに固有の才能や賜物があなたの内にあるという自己肯定感を与えてくれる大きな安心感の拠り所です。そしてそれを用いることを勧めていることに、私たちが神様の願う良い業を行うことを期待されていることが分かります。その期待に適う生き方をしようとする中に、自分の力を自分だけのためではなく、他者のため、社会のために注ごうとする、啓明のスクールモットーである Hands and hearts are trained to serve both man below God above. の精神が活きて働くのでしょう。そのような生き方の指針を示しているのが聖書のメッセージであり、啓明の教育であったはずです。

 

卒業生の皆さん、親の庇護の下に生きてきたこれまでと違い、ここからはますます責任を伴う、大人扱いされる世界へ出て行きます。できることも増えていきますが、しなければならないことも増えていきます。そして変化の大きな時代にあって、ルールも変わり、正しさの規準さえ、ますますあいまいになっていくことでしょう。

そのような世界で、その聖書のメッセージ、そしてそれを土台とする啓明の教育が、まさに大海原を航海するときにでも行き先を正しく示してくれる羅針盤として、皆さんの歩む道筋を照らすものであり続けることを願っています。

その羅針盤はすでに皆さん一人一人の内に据えられました。迷ったとき、悩んだときはもちろん、自分を強め、励まそうとするときにも、その羅針盤の針に自分を照らしてほしいと願います。それはきっと状況によって伸び縮みするものではなく、いつまでも変わらず皆さんを正しい道へと導いてくれるものとなることでしょう。

 

皆さんがこの啓明で過ごした日々で得たものすべてが、皆さんをこれからも守り、励まし、力づけてくれることを祈るとともに、確かな羅針盤を心に据えたものとして、どうぞその生涯を雄々しく強く、歩んでください。

その羅針盤の示す方向は、常に神様の愛へと向かう真理の道です。どうか今日の日、この啓明学院を旅立つ皆さんが、その真理の道を目指し歩んでほしいと願っています。そしてそれぞれ進んでいく場所で、喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣く、啓明生らしい生き方を実現してください。きっとそこに、神様の願う世界が現れることでしょう。その時にこそ、啓明で学んだ意味と価値が輝くはずです。

 

さあ、そんな世界を創り出すための皆さん自身の新しい歩みがいよいよ始まります。

一人一人にいつまでも神様のお守りと支えがあることを心より祈っていることをお伝えして、式辞を終えます。

 

God bless you all.  良き人生を。

2024年2月17日

指宿 力