KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

中学校卒業式 式辞

2024年3月16日

2023年度啓明学院中学校卒業生の皆さん、卒業おめでとう。

 

創立100周年を迎えた記念すべきこの年の中学3年生として、今日、こうして卒業を迎えるにあたり、それぞれの啓明での日々を改めて心に留めていることと思います。その学校生活の中に、いつも神様への祈りがあり、共に歩む教職員や友人との日々があり、保護者、親族の支えと励ましがあったことでしょう。それらに対する感謝の思いを皆それぞれにしっかりと胸に刻み、啓明生として相応しい今日の日としてまいりましょう。どうぞよろしくお願いいたします。

 

さて、今年は能登半島の地震、津波の痛ましい災害報道で幕を開けました。前から続く戦争のニュースなど時代を象徴する困難が私たちの生きる現代に横たわっていることに、皆さんも心を痛めていることでしょう。

能登半島の震災に関しては昨年度、青木先生企画のサマープロジェクトで、能登町を訪問し、能登高校の方々と交流の機会をいただいたご縁もあり、これからも学校としても支援や交流を継続的に行っていきたいと思います。また、生徒たちともできることを共に考え、実施していきたいと願っています。

 また戦争など困難な状況下にある方々を覚え、祈ることを続けましょう。そのためにも日々のニュースや報道にしっかりとアンテナを伸ばし、世界に起こる出来事に敏感でいましょう。

 

つい先日、漫画家の鳥山明さんが亡くなった、との報道がありました。おそらく皆さんにとって、身近で、思い出深い作品を描かれた漫画家だと思います。この知らせに心を痛めている人もいるのではないかと思います。数ある鳥山さんの作品でも、私にとって一番親しんでいるのがドラゴンボールです。

 第1話は、発表されたタイミングで読みました。それ以降、シリーズがどんどん変わっていきましたが、熱心に漫画やテレビを観る息子の横で、私もしばしば一緒に魅力的な登場人物たちの対決をドキドキしながら観てきました。ドラゴンボールの面白さの一つは、決闘を重ねていく中で、途中、仲間達の思いを力に変え、一気に強くなったりするところでしょう。サイヤ人が変身してスーパーサイヤ人になったりしますが、そうなると髪の毛が逆立ち、体中からオーラが沸き立って、戦闘能力が急激に強くなるのです。そして強敵をやっつけるのですね。

 時々、とても強い相手が出てきて、主人公達を苦しめます。憎いほど強い相手には、魔神ブウやフリーザ、セルなどがいました。こういった強敵には何をしても適わないのですね。そうしたとき、主人公達は何をしたのでしょう。スーパーサイヤ人になっても、みんなで束になってかかっても、相手を倒すことができない。もう相手の思うがままになってしまう。そんな絶望の淵に立たされたとき、主人公達は何をしたのですか。

 そう、修業をするのですね。精神と時の部屋、と言われる修業の空間に籠るのです。そこでは時間の流れが外の世界とは異なり、精神と時の部屋の1年は外の世界の1日にしかならないのです。つまり、たっぷり修業をするに最適の部屋なのですね。

そこで血のにじむようなトレーニングを重ね、もともと持っているパワーをさらに上げます。戦うに相応しい能力を身につけて、最後の対決に挑む物語が、私たちをドキドキさせてくれたものです。現実世界ではそんな場所はなさそうに思いますが、精神と時の部屋は外の世界と重力が異なるので、そこでは時間の流れがゆっくりになるという設定になっています。この設定の元ネタが一般相対性理論であるということはすぐに分かります。

 

このアインシュタインの相対性理論に基づく、重力によって時間の進み方が変わるという予言は、今の物理学では定説になっています。時間はどこでも一定に進むものである、という考えが、実際には違うことに着想したのはアインシュタインが26歳の頃、バスの中だったことは有名な話です。それを証明することができると導き出したとき、彼はきっとドキドキ、ワクワクしていたのではないかと思います。まさに時間の経過を忘れて没頭した研究の成果だったのでしょう。

ただそういった新しい発見も、共同研究者だったレオ・シラードによってそのアイデアは軍事利用の道を歩んでいきます。アインシュタインの発見したE=MC2の原理を用いて核融合を実際に行うことが出来れば、爆発的な威力を持つものを作れると発想したのです。

当時のナチスドイツが驚異的な力を持つ武器を構想していることを知った彼らは、それぞれに当時のアメリカ大統領ルーズベルトに手紙を送り、危機感を伝えます。そして、それがマンハッタン計画へとつながり、そこで急速に進められた兵器開発でできたものが投下された場所が広島であり、長崎であったのです。

ただ、アインシュタインにしてみれば、自分の研究がそのようなことに繋がっていくとは思いもしなかったこと言われています。彼が大変悔やんでいたことは、後に日本で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士を訪ね、涙ながらに謝罪したことからも知られるところです。けっしてアインシュタインはE=MC2の原理を、そのように用いられるのを望んでいなかったのです。

 

アインシュタインの言葉に次のようなものがあります。

 

信仰のない科学は不完全だ。

科学のない信仰は盲目だ。

 

これはカントという哲学者の言葉を基にした彼の名言の一つです。そもそも科学の進化は世の中の不思議を解き明かし、これまでできなかったことを現実化してくれる大変優れたものです。

今の私たちの世界は当然、科学の進化の最先端にいるわけですが、一方でその科学技術を人間がどのように使っていくのか、ということを考えるときに、アインシュタインのこの言葉はとても重たいメッセージを私たちに送っています。

 

悲しいかな、科学技術は戦争に用いられるときに飛躍的に進んでいくものですが、それをどのように使うのか、ということはいつでも人間に委ねられているのです。そして大量生産、自動車や飛行機などの近年加速度的に進化したテクノロジーなどはもちろん、今、私たちの身の回りにあるパソコン、スマートフォン、ゲーム、生成AIなどについても同様です。アインシュタインの言葉は、科学技術を用いて、私たちは、あなたはどのように生きるのですか、という問いかけです。

どうぞ皆さん、中学を卒業し、いよいよ次のステップへ歩もうとするにあたって、この問いかけに真剣に耳を傾ける人であってほしいと願います。

あなたはどのように生きるのですか、という問いはそのまま、あなたはどんな世界を作ろうとしているのですか、ということと同じです。そして、あなたは周りの人々とどのような社会を作っていこうとしているのですか、ということにも重なっていくのです。

啓明学院中学校での3年間、聖書の言葉を土台とした教育の中で、聖書の語る正しさや公平で平和な世界がどのようなものであるかを、皆さんはともに学び、考え、それぞれの心の深いところにそれらを大切なものとして据えることができたのではないでしょうか。皆さんの学びは、校長面接で私が確認したことでもあります。

 

その啓明での中学の学びを終えた皆さんが、いよいよ次に歩み出す時がやってきました。

どうか様々な課題を通して問いかけてくる、あなたはどのように生きるのですか、という問いかけに対し、一人一人が神様から委ねられている期待や願いにどう応えるべきか、という視点で、しっかりと考えて続ける皆さんであってほしいと願います。そこに現代に生きる者として、啓明学院中学校を卒業した者として歩むべき道、選ぶべき未来が見えてくるのではないでしょうか。

新しい知識を貪欲に吸収し、実際に見て、敏感に感じる人であってほしいと願います。そして苦難や弱い側に立たされる人々への思いやりを持って、自らに与えられた力を神様と人へと奉仕することに用い、何より神様の平和を実現するために行動する皆さんであってほしいと願います。課題の多い時代に高校生活を過ごす皆さんに必要なことは、チャレンジ、チャレンジ、チャレンジ、です。失敗を恐れず、チャレンジし続けることです。

 

チャレンジする土台はしっかりと造られました。チャレンジの先に、神様が皆さんに期待している生き方を実現する自分が待っていることを信じましょう。私もその姿を見ることができる日を楽しみにしています。この後、皆さんに卒業証書を一人一人手渡します。それは皆さんがこの啓明学院中学校で学んだことの証しです。胸を張って誇りを持って受け取ってほしい。そしてこの啓明学院が大切にしている人間のあり方を皆さん自身が体現する高校生活を送ってくれることを心より願っています。

 

皆さん一人ひとりの前途に神様の祝福とお導きが豊かにあるよう祈りを込め、これを式辞と致します。

 

2024年3月14日

指宿 力