KEIMEI GAKUIN TOPICS BLOG

校長コラム

高校卒業式 式辞

2021年2月22日

2020年度 啓明学院高等学校卒業生の皆さん、卒業おめでとう。

 

そして保護者の皆様、今日の晴れの日を共に迎えることを嬉しく思うと共に、これまで学校を信じ、お子様を託してくださり、そして、いつも暖かいお支えをいただきまして、本当にありがとうございました。

卒業生の皆さん、私は卒業面接の時に一人一人と話しをしていて、皆が啓明楽しかった、入学して良かった、と言ってくれたことが本当に嬉しかったし、僕も皆に啓明を選んで入学してくれてありがとう、と言いたい思いです。

その一方で皆が啓明に来た価値は、ここが楽しかった、という思いを持てたことだけではないことを覚えておいてもらいたいと願っています。それは啓明の学びや経験はこれからの学生生活や人生においてこそ、意味のある、価値のあるものとなるはずだからです。

 

先日、池上彰さんのコラムで、アメリカ大統領となったバイデンさんの就任演説の日本語訳を、三つの新聞社の翻訳で比較したと書かれていたことに興味をそそられ、私も半日かけて、朝日、読売、日経、東京、BBCニュースジャパンの訳を比較してみました。池上さんも指摘されているところですが、バイデンさんがアウグスティヌスの言葉を引用する際、アウグスティヌスのことを”a saint of my church”と言いました。ここをきちんと訳していない記事もありましたが、朝日ではこれを「私の教会の聖者」、読売は「私が属する教会の聖人」、BBCは「私が通う教会の聖人」と訳していました。バイデンさんはケネディ以来のカトリック教徒の大統領です。そのことが非常に大事な意味を持っていることを分かっている人は、読売やBBCの訳が適切であることが分かるでしょう。そして皆さんもカトリックとプロテスタントの違いは当然のこと、聖人がカトリックのものであり、プロテスタントではそのような信仰を持たないことを知っています。それならばmy churchが、私の属する「教会」、通う「教会」というより、私の属する「教派」と訳したほうがもっとよいことを皆さんなら感覚的につかめるのではないでしょうか。

 

この比較をしながら思ったことなのですが、こういうことに対しても豊富な知識や敏感な感覚を持っていることが、実は啓明生の非常に重要な価値ではないか、ということです。皆さんも、もしかしたら、これまで勉強の出来不出来は点数で測られることが多く、授業でやったことを覚えているか、理解しているかなどだけを数値化されるのが評価と思っていたかもしれません。しかし皆さんがこの啓明で培った力はそれだけではなく、実はとても評価しづらいものがたくさんあるのです。

物事を理解するには、様々な知識を柔軟につなぎ合わせ、そこにある感情や個々の背景や時代をつかみ取りながら、深い思考を必要とすることが多々あります。それが出来るのは実に長い時間をかけて養った学びの成果です。そういったことに向けて、これまで歩んできたことが皆さんの啓明での学びなのです。今はまだピンとこないかもしれませんが、そういった力を自分自身が携えていることこそが啓明で学んだ最も価値あることだと、卒業後、皆さんは様々な機会に気がつくことでしょう。それは幅広い学びの経験がもたらすものであり、その土台にキリスト教の価値観への理解があることは皆さんの強みなのです。そして、多様なバックグラウンドを持った仲間たちが日常的にそばにいて、常にチャレンジを意識した前向きな学校生活があったはずです。

 

そういうこと一つ一つが皆さん自身の中に積み重なり、繋がり、深く根付いているのです。いつか、その学びの価値が、ああ、こういうことだったんだな、と思える、そんな瞬間が皆さんに訪れる時がくることも、実に私たちの希望の一つです。私たちの生きるこの世の中には、簡単に解決しない問題がたくさんあります。皆さんもそういった現代的な課題に直面することでしょう。それでもあきらめず、周囲の人々と対話をし、蓄えた知恵や他者への思いやりの心を活かしながら、調和と決断を両立させて、正しい問題解決を目指して欲しいのです。そういった力の源がすでに皆さんには息づいているのですから。

 

(中略)

 

今、高校生活を振り返り、やり切った、頑張った、と思う反面、やっぱり失敗をして、後悔していることがあるかもしれません。消したい過去もあるでしょうか。それでも歩いた道のりが自分自身の歴史であり、自分が作った高校時代です。

 

自分自身の高校生活に誇りを持ちなさい。

悔やんでいることがあれば、それも抱えながら次のステップに活かしなさい。失敗や後悔から学んだことが皆さんの財産です。

共に歩んだ仲間たちを生涯の友として大切にしなさい。

一人の時間を大切にしなさい。孤独が自分自身を育ててくれるから。

支えてくださった方々への感謝の思いを忘れず、自分自身が支える側に立つ力をつけなさい。

そしていつも神様があなた自身を守り、支えてくださっていることを忘れずにいなさい。

 

皆さんには、ここで得たすべてをこれからの人生を歩む力として欲しいと願っています。そして、その力を惜しみなく他者や社会に注ぐことの出来る啓明精神を活かして歩んで欲しい。今、心より、そう願っています。いつも、いつまでも、私たち啓明の教職員は皆さんの最大の応援団であり続けます。そのこともどうぞ励みにして欲しい。皆さんは私たちの希望なのだから。

 

最後に詩を朗読して終わります。1月22日の校長コラムで紹介した安積徳也さんの詩で、中学の時に学年におられた湯浅先生があのコラムを読んで、この詩をきれいに書き、額装して学校に届けてくれました。有り難いですね。

 

「明日」という詩です。

 

はきだめに

えんど豆咲き

泥池から

蓮の花が育つ

人皆に

美しき種子(たね)あり

明日何が咲くか

 

皆さん、一人一人が明日、どんな花を咲かせてくれるのか、私たちは楽しみにしています。美しく、しなやかで、たしかな輝きを持った一人一人固有の花を、それぞれの場で大いに咲かせて欲しい。良き人生を過ごされることを、心より祈っています。

 

 

2021年2月20日

指宿 力