3学期終業式のメッセージ

「その後」から始まる旅

皆さんは『葬送のフリーレン』という作品を知っているでしょうか。漫画、アニメともとても人気があるようなのですが、このお話がユニークなのは、魔王を倒した「その後」から始まる点にあります。

物語は勇者一行の魔王成敗が終わり、共に戦った仲間が寿命でこの世を去った後、1000年は軽く生きるという長寿の種族である魔法使いのフリーレンが、「人間をもっと知ろうとする」ための新しい旅に出かけるストーリーです。

フリーレンは、仲間を失う経験をしたとき、初めて自分が相手のことを何も知らなかったことに気付き、後悔するのです。そして、かつて仲間と歩んだ道を、もう一度たどり直していきました。

私たちの人生も同じかもしれません。一つの節目が終わるとき、あるいは大切なものをなくしたとき、そこから本当の意味での「知るための旅」を始めることができるものなのかもしれません。

 

世界の不安と平和を願う心

世界に目を向けてみると、先日来、大きな戦争のニュースが続いています。様々なメディアを通して報道されていますが、世界はどうなってしまうのか、不安な思いがあります。私たちの生活にも影響がすでに出始めています。そうした中で経済的な損得が心配になることは当たり前のことですが、自分自身の心の中にある平和を願う思いも、ぜひ見つめてほしいと願います。

世界で起きている争いを目にしたとき、私たちは自分の無力さに打ちのめされそうになります。画面の向こうで起きている悲劇に対して、ただ傍観者でいるしかない自分がここにいるからです。戦争や争いでは、相手を「人間」としてではなく、「敵」として憎んだり、無意味な「記号」のように扱います。そこには相手を思う想像力は必要なく、むしろその感情はオフにしなければなりません。

 

平和を作る「想像力」

平和の第一歩は、目の前の相手が自分と同じように痛みを感じ、大切な家族がいて、守りたい日常を持っている一人の「人間」であると想像することから始まります。学校生活でも、時には意見がぶつかって気まずい思いをしたりして、面白くない気分になるときがあります。そんな時、自分の意見だけが正しいと自分を正当化していると、対立はどんどん膨れ上がっていくものです。

しかし、相手がなぜそう思うのかと視点を変えてみると、案外、その気持も分かってくるものですし、そこから共通点を見出すことで落とし所も見えてくるものではないでしょうか。「なぜ、あの人はあんなことを言ったんだろう」と相手の心に思いを馳せた瞬間、そこに小さな平和が芽生えるように思います。

物理学者アインシュタインの名言として有名な言葉に、「想像力は世界を覆う」というものがあります。それは決して、遠い宇宙や偉大な発明のことを指しているのではありません。今、隣に座る人が「どんな言葉をかけられたら嬉しいか」「何に傷ついているのか」と心を砕き、その思いを想像する。その心の動きこそが、知識だけでは到達できない、他者への深い理解に繋がる、すなわち平和への第一歩なのです。

 

未来へつなぐ優しさ

次に皆さんがそろって会うときは、新しい仲間たちが共にいる始業式です。1年生の皆さんは「先輩」になり、2年生はいよいよ、中高それぞれの顔となる「最高学年」へと進みます。そして新しく来る1年生たちは、今の皆さん以上に不安を抱えていることは簡単に想像できますね。そういうときにこそ、想像力のスイッチの発動です。

葬送のフリーレンの中に出てくる勇者ヒンメルは、困った人を助けずにはいられない真の勇者で、魔王を倒した英雄でした。そして彼は英雄として扱われている自分の銅像をあちこちに建てていきました。しかし、それは自己顕示欲からではありません。これから長生きするフリーレンが一人で寂しくないように、という配慮や、「誰かが困ったときに、英雄の銅像があれば勇気を出せるかもしれない」という、彼なりの未来を見据えた優しさからでした。それは、「相手の未来を想像し、今できる小さな優しさを残す」という行為でした。

ぜひ私達も、相手の心の中を想像し、聖書の最も大切な教えである「隣人愛」を実践する人間でありたいと願います。それは「自分が入学したばかりで不安だった時、どんな言葉をかけてほしかったのか」それを思い出し、実行することです。皆さんのかける言葉一つが、新入生にとってはこの学校が「自分の居場所だ」と確信できる福音(良い知らせ)になります。それは自分たちの居場所を、新しく来る人たちのために少し広げる行為です。きっとそれは新入生が啓明の生徒として、これが啓明生のあるべき姿なのか、という自覚を持つきっかけにもなることでしょう。ぜひ、そんな先輩として一人ひとりが新入生を迎えていきましょう。

 

「神様」と綴る、希望の物語

今日、読んでいただいた聖書の箇所をもう一度、読みましょう。「わたしたちは神に造られた者であり、しかも神が前もって準備してくださった良い業のためにキリスト・イエスにおいて造られたからです。わたしたちはその良い業を行って歩むのです。」(エフェソの信徒への手紙 2章10節)

ここで「造られた者」と訳されている言葉は、これはギリシャ語で「ポイエーマ」と言うそうです。これは「詩」を意味する「ポエム」の語源となった言葉です。つまり、直訳から考えてみると、皆さん一人ひとりは、神様が心を込めて綴っている「世界に一つだけの詩」なのです。

時には壁にぶち当たり、「自分に何ができるのか」と落ち込むことがあるかもしれません。しかし、フリーレンの物語が「魔王を倒した後」もずっと続いていくように、皆さんの人生という「詩」も、たとえ困難な時期があったとしても、そこから新しい意味を見出し、書き継いでいくことができます。

今日、こうしてここに存在していることはもちろん、あなたが誰かのために想像力を働かせて行動することや、明日をより良く生きようと一歩を踏み出すことは、神様が描く美しい詩の一行であり、この世界を照らす「希望の光」なのです。

春休み、どうか心身ともにリフレッシュし、新しい学年を迎えるためのエネルギーを蓄えてください。皆さんの春休みの歩みも、神様の豊かな祝福と守りの中にありますよう祈っています。そして4月、一回り大きく成長した皆さんと、笑顔で再会できることを楽しみにしています。

 

2026年3月19日

指宿 力

 

啓明学院中学校・高等学校
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